ロッキー・マウンテン・ニュース最後の日

ロッキーマウンテンニュース最終号

アメリカの広告界で大きな影響力のあるメディア、AdvertsingAgeのニュースレターを購読しています。今日届いた記事から二つ。

ひとつは、ずっと大きな拡大を続けてきたインターネット広告が、2009年の第1四半期は初めて前年比マイナスになるだろうという予測記事。おそらく5%程度の減少が見込まれているらしい。不況の影は、広告の中で唯一拡大を続けてきたインターネット広告にも及んでいる。

もうひとつのニュースは、その落ち込みはインターネットの比ではない新聞界から。
創刊から149年と311日続いた新聞が、本日(2月27日)最後の新聞を発行して廃刊になるというニュース。コロラドのRocky Mountain News(ロッキー・マウンテン・ニュース)がその新聞だ。
コロラドにはDenver Postという別の日刊紙があって、所有者が同じだったので、Denver Postを残してRocky Mountain Newsを売却しようとしたが買い手が現れず、廃刊になったのだという。
売却の決定が下された1ヶ月前から最後の日までの編集局の様子やスタッフ、読者、デンバー市長のインタビューなどで構成された20分ほどの良くできたビデオが公開されていて「悲しい内容だけど見る価値のあるものだ」とAdAgeは評価する。

Rocky Mountain Newsのサイトでそのビデオが見られる。
http://www.rockymountainnews.com/

もともと写真報道やスポーツ報道に優れていて、WEBサイトもとても良くできているメディアだったそうだ。150周年までわずか2ヶ月だったのに、その2ヶ月を乗り越えて150周年を祝うことが出来ずに廃刊した。スタッフたちが最後に書いたブログの記事に多くの読者からコメントが寄せられている。ニュースをじっくり掘り下げたり、埋もれていた問題に光を当てて改革のきっかけを作ったりしてこの新聞は何度もピューリツアー賞をとっているそうだ。地方都市の老舗の新聞が惜しまれながら廃刊していく様子が悲しい。

購読料より広告収入を主な財源にしているアメリカの新聞は、売却・廃刊のニュースが絶えず、シカゴ・トリビューンサンフランシスコ・クロニクルなどの大都市の有力紙も存亡の危機に瀕している。しかしニュースだけでは伝わってこない現実感が、ロッキー・マウンテン・ニュースが公開した最後のビデオからは伝わってくる。

夫婦とも編集局に勤務するジェフとローラの語りが軸になっている。最初に売却の方針をオーナーから伝えられたときに、記者たちがみんなノートとペンを手にしてメモを取り始める映像が流れる。「取材ではないのに、これが記者のDNAのなのよね」
二人の自宅の日常風景の映像に続いてローラの語り。「日曜日の夕食後に二人の子供に「ロッキーが売りに出されるのよ」とごく軽い感じで伝えたの。7歳の娘はちょっと黙ったあと「買い手が見つからなかったらどうなるの?」と聞いてきた」と涙ぐむローラ。

ロッキー・マウンテン・ニュースの最後のビデオは、新聞社のメディア担当が作ったとは思えないほど良くできたドキュメンタリー。映像処理がきれいで、それが余計にこのメディアはもうないのだと思うと残念に思えてくる。ここに登場しているスタッフたちは、明日から仕事がない。

広告収入が主な収入源のアメリカの新聞は、これからもいくつも廃刊が続くかもしれない。健全なメディアが消えていくのは、本当に残念なこと。なんだかんだあっても、健全なメディアが健全にニュースを発信している限り、その社会は健全に保たれるのだと思うから。
(冒頭の写真はRocky Mountain News最終号の1面です)