オバマ大統領の施政方針演説

昨日、日本の首相がワシントンに来ていたのですよね。こちらではほとんどニュースにならず(夕方のニュースでほんの数秒映像を流した局がありましたけど)、昨夜行われたオバマ大統領の施政方針演説の話題で持ちきりです。

施政方針演説は、大統領が国会の上院&下院の議員の前で、国民に向かって行うもので、オバマ大統領は就任後初めてのことです。
場所は国会議事堂の下院の議会室だと思います(議長席に、下院議長のナンシー・ペロシ女史が副大統領と並んで座っていましたから)。

国民に向けて行われる演説なので、全ネット局・ニュース専門局が中継を行います。上下院の議員たちにとっては顔を売るチャンス。着席する席が決まっているワケではないので、良い場所をとろうと、東部時間の夜9時(西部時間は午後6時)から始まる演説に、朝8時から場所取りをしていた議員がいたとか。「あの議員たちは他に仕事とはないの?」「いやあ、携帯電話で仕事していたらしいけど」とCNNのキャスターたちが皮肉っていました。

9時の演説開始の30分前には議場は満席。議員たちの他にゲストとして招かれた人も大勢。1月にニューヨークのハドソン川緊急着陸して全員を無事に生還させたUS Airwaysの機長もいました。外国の大使たちも招かれていたようですがTaro Asoは招かれなかったようです(アルファベットで書くとなんと軽いこと)。

議員&ゲストが着席したあと、上下院議長・副大統領(夫人も一緒)・ファーストレディ・クリントン国務長官など各省庁の閣僚たちが紹介されながら議場に入ってきて席に着く(夫人が同席するというのも日本とは違いますね)。

最後に、大統領が登場すると全員立ち上がって拍手。しばらく鳴りやまない拍手を「Thank you, Thank you」と10回くらい言いながら押さえて、演説が始まった。

52分に及ぶ演説は、インターネットのニュースメディアHuffington Postのコラムによれば、拍手で中断すること65回、そのうち37回がスタンディング・オベーションだったそうだ。みんな数分おきに立ったり座ったり、聞いている側も忙しそうでした。拍手とともに立ち上がるのが、最初は民主党の議員たちばかりだったのが、最後の方には共和党議員も大半が立ち上がって満場の拍手喝采でした。

日本の新聞社のサイトにも英語の全文とその翻訳が掲載されているようなので(Asahi.com、Nikkei.netに載っているのを見ました)、日本でも詳しく紹介されたと思います。特に拍手を集めたパンチラインを拾ってみます:

This time, CEOs won't be able to use taxpayer money to pad their paychecks or buy fancy drapes or disappear on a private jet. Those days are over.
(政府資金を投入して救済する企業に関して)今回ばかりは経営者たちが納税者のお金を自分たちの給料にしたり、役員室を装飾したり、プライベートジェットに使うことはできない。そういう時代は終わったのだ。

I do not accept a future where the jobs and industries of tomorrow take root beyond our borders -- and I know you don't either. It is time for America to lead again.
私は明日を担う仕事や産業の根っこが我が国の境界の外にあるという将来は容認できない。みなさんもそうだと思う。もう一度アメリカが指導権を取り戻すときなのだ。

So let there be no doubt: health care reform cannot wait, it must not wait, and it will not wait another year.
(崩壊状態にある医療保険システムについて)はっきりさせておこう。医療保険制度の改革は待ったなしだ。遅らせてはいけない。来年への持ち越しもできない課題である。

演説終了後、議場のなかに降りていった大統領は、握手攻めサイン攻めに会っていました。演説内容を載せた小冊子が議場で配られていたのですが、上下院の議員たちがこぞってその表紙にサインを求めていました。

大統領の施政方針演説の中継を見るのは初めてですから、この熱狂がオバマ大統領ならではのことなのか、いつもそうなのか分かりませんが、間違っても日本の国会では絶対に見られない光景でした。

大統領演説の時間が多くの人が見られる夕食後で、テレビのネット局すべてが同時に生中継をするというのも、日本では考えられないですよね。アメリカ人が日本人よりはるかに政治を身近に感じているのは、折りに触れて大統領の演説をじっくり聴く機会を持てることがその一因にあるのでは?

国民がみんな見ていると思ったら、役人に作らせた原稿を棒読みするのでなく実のある内容を考えるだろうし、少なくとも読めない漢字は調べるだろうし、途中で居眠りする議員さんも減るのではないですかね。