危機管理が政治家の生死を分ける?

先日、久しぶりにニュースの博物館Newseumへ行ってみた。美術館・博物館は無料が常識のワシントンDCで、大人の入場料が20ドルもする博物館なのだが、私は年間パス(確か70ドル)を持っているので、気軽に行ける。毎日、その日の全米各州および世界各地の新聞の1面が並べられ、それを見るだけでもけっこう楽しい。

しばらくぶりに行ったら、2005年にニューオリンズなど南部の町を壊滅させたハリケーンカトリーナのニュース報道の特別展をやっていた。あらためてカトリーナ被害のすごさを知ったのだが、そこで興味深い光景に出会った。

展示の一角で、当時のニュース映像と現場の様子を伝えた各局のキャスターやレポーターの証言を編集した「メディアはどうカトリーナを伝えたか」というかなり見応えのある映像を流していた。

大雨と強風で町がほぼ水没し、逃げ場を失った人たちが屋根に上って助けを求める映像、クルマなど移動手段のある人たちは避難していったが、クルマを持たない移動手段のない人たちーーほとんどが貧しい黒人層ーー何万ものそういう人たちが避難場所としてフットボール場に押し寄せている映像。

それはそれは迫力ある映像で、それに現場をレポートしたキャスターたちの生々しい証言が重なる。「何万もの人が避難しているけれど、水も食料もなく、何の救援も来ていない」「政府の各省庁の役人たちが出来るだけの救援や対策をしていると互いに誉め合っているけど、それはいったい、どこに来ているんだ? ここには誰もいないじゃないか!」

そんな映像を見ながら涙ぐむ人も。モニターの前に、最初は数人しかいなかった観客が気がつくと15人くらいまで膨らんで人だかりになっていた。と、そこで画面が変わって、当時のブッシュ大統領の記者会見の映像が映し出された。政府は救援に全力を挙げている、というコメントだったと思うが、驚いたのは、画面に見入っていた15人ほどの人たちのほとんどが、ブッシュの姿を見た途端に、口の中でなにかつぶやいて、去っていってしまったのだ。残ったのは、私ともう一人の女性だけ。

映像はその後もしばらく続き、ようやく始まる救援の様子や、それも全く足りずに困窮する人たちを映し出す。再びモニターの前で足を止めて映像を見る人たちが増え始める。7〜8人が集まっていただろうか。ここで、現場を視察に訪れたブッシュの映像が再び挿入される。すると、またすっと波が引くように、今度は本当に、私を残して、誰もいなくなってしまった...

この件に関して本当にブッシュは嫌われているようだ。1度だけなら偶然だが、2度続くと平均的アメリカ人の心象風景を映したものだと思わざるを得ない。

ハリケーンカトリーナはもちろん天災だが、犠牲者が数千人規模に達したのは政府の対応が後手に回った人災だとされている。救援が来なかったために犠牲になった人の多くが、クルマを持たない貧困層やお年寄りと、老人ホームの老人たちや刑務所に収監されたままの囚人たちなど、自分では動けなかった人たちだとか。行政は本来、そういう人たちを率先して避難させる責任があるはずだが、それが行われなかった。救援のバスがくるから自ら動かないようにと伝えられた地域に、結局バスは1台もこなかった、とか。

世界一豊かな国アメリカで、たかがハリケーンから人々を救えない。IS THIS AMERICA?という当時の新聞の大見出しが、信じがたい惨状に苛立つ人々の気分を伝える。各メディアは災害のまっただ中に看板キャスターを競って投入して、現場の生々しい映像を全米に送った。そんなニュースを数日間見続けたせいで、アメリカ人の中に、あの時ブッシュは弱者を見殺しにしたという認識が広まっている。すでに5年もたってブッシュが過去の人になっても、あの時の彼の姿は見たくもないとモニターの前から一斉に立ち去っていく人々の姿が、その嫌悪感の根深さを知らせてくれる。

一方、チリでは「奇跡の全員生還」に、世界中のメディアの前で、24時間現場に立ち続けて33人を出迎えた大統領がすっかり世界の人気者だ。政治家にとって、こうした災害時の危機管理は、本当に「生死を分ける」。いや、政治家の本当の実力が出るのが、こうした危機に直面した時だということなのかな。

Newseumでの思いがけない光景と、今回のチリの炭坑作業員たちの生還劇を重ね合わせて、そんなこと思いました。

三連休 中間選挙やら中国やら

10月9〜11日は、日本は体育の日の三連休ですが、アメリカはコロンブス・デーの三連休。穏やかな秋晴れの連休でした。

アメリカは11月2日に中間選挙が迫っていてテレビは選挙CMが目立つ。対立候補の政策の非をあげつらうネガティブキャンペーンが多くて、見ていて気持ちのいいものではないが、批判の矛先が対立候補だけでないCMが増えているという記事が、昨日のニューヨークタイムズ(NYT)日曜版に載っていた。

上院の1/3、下院の全議席、36州の州知事などの選挙が一斉に行われる今年の中間選挙の争点は、何と言っても経済問題。特に相変わらず失業率が高く雇用情勢が改善しない状況を受けて、責任のなすりあいになっている。民主党は、過去のブッシュ共和党時代の政策がアメリカから雇用創出の機会を奪っていると共和党の政策を非難し、一方、共和党は、現政権の経済政策が失敗して雇用が改善しないと批判する。

NYTによると、少なくとも29人の候補者が、対立候補の政策が中国寄りで、その結果アメリカの雇用が中国に奪われて失業者が増えているという内容の選挙CMを展開しているという。中国をスケープゴートにした選挙CMが増えている、というワケ。

そのひとつ。オハイオ州選出の下院議員ザック・スペースは対立候補共和党ボブ・ギブスが自由貿易支持者で、そのせいでオハイオ州から9万1000人分の雇用が中国に流れ、中国は喜んでいると「謝謝」と漢字で中国語の入るCMをオンエア中。
http://www.youtube.com/user/ibackzack#p/a/u/0/agoelZyV7nE

一方、ウエスト・ヴァージニア州共和党、スパイク・メイナード候補は、オバマ政権下で風力発電装置の生産を中国に発注する法案を支持したと民主党対立候補を非難する。
http://www.youtube.com/user/SpikeMaynardCongress#p/u/0/k9NGXfB7PxA

このところ日中関係は緊張が続いているが、アメリカと中国の関係は、ずっと神経戦のような緊張関係の中にある。アメリカ人にしてみれば、Googleを撤退させた中国政府の規制や今回のノーベル平和賞の問題を見るにつけ、もともと共産主義アレルギーのある国民性なので、自由な言論が認められていない中国に対しては警戒心が強い。そこへもってきて、アメリカの雇用が(民主党によれば)240万人分も中国に奪われていると大々的にテレビでCMが流れれば、ますます反中国感情が煽られる。
http://www.dscc.org/moved

240万人分の雇用というのは大げさな数字で、実際には、香港や台湾、韓国にあった生産拠点を中国に移したアメリカ企業が多いので、直近の数年でそれだけの雇用が中国に奪われたわけではないとNYTは説明しているが、Made in Chinaばかりが目につく日常のなかでは「雇用が奪われた感」は皮膚感覚で納得してしまう。

記事の中にも出てくるが、1980年代に日本車の台頭をめぐって日本バッシングになったのと状況が似ている。日本の自動車メーカーはその後、アメリカ工場を作ってアメリカの雇用創出に貢献したわけだが、中国に奪われた雇用とは、もともとアメリカ企業が生産拠点を海外に移したもの。中国企業が奪ったわけではない。その辺は事情が違うわけで、見当違いな中国バッシングと言えなくもない。

ただ、経済成長を笠に着て居丈高な振る舞いの目立つ中国に、アメリカのみならず世界が神経質になっている。こちらで外交を扱う国務省務めの友人など政府職員の人たちと話をすると(私が日本人なのでリップサービスも若干入っているが)、中国が力を持ちすぎては世界中が困惑する。アメリカも周辺アジア各国も、日本にアジアのリーダーの役割を期待しているはずだが、日本にはそのつもりはないのだろうか、などと聞かれてしまうことがある。

「日本にそのつもりはないのだろうか」という質問が出るのは、日本がアジアのリーダーの役割を果たしているとは見えないからだ。 本当に残念ながら、返事に窮する。そのつもりがないわけではないのだけれど、どうやったらいいか分からないのかな... 外交、へただからねえ、などと煮え切らない答えをするはめになる。

そうそう、話はそれていきますが、日本の外務省職員や外交官は、東大(or超有名大)→国家公務員試験→外務省の純粋培養スタッフですよね。一方、アメリ国務省職員のほとんどが、国務省で働く前に別の仕事を経験している。 政府職員の採用には、多様性のある人材を集めるという方針があるそうだ。

インド担当の女性は、元はUnited Airlineのフライトアテンダント。現在アフリカ担当の男性の元の職場はバンク・オブ・アメリカ。ソフトウエア開発の仕事をした後に国務省という人や、あるいはヨーロッパ数カ国で英語を教える仕事をした後に国務省に入って北欧担当になったという人も。それぞれタフな民間の仕事で培った技能や交渉術はとても役に立つという。

ワシントンの国務省ビルに働く人1000人。さまざまな才能を持った人たちが集まる職場は、とてもCompetitiveな(競争の激しい)職場だという。仕事で人に会う機会がない限りはランチは机で仕事をしながら済ます。いつ誰に会ってプロモートのチャンスがめぐってくるか分からないから、ちょっとコーヒーを買いに行くときも、きちんとジャケットを着ている、と仲良しの友人Yvetteは打ち明けてくれた。

こういう人たちの中で切磋琢磨され、階段を上がっていったトップクラスが相手なのだから、日本の純粋培養・世間知らず外交官がかなうわけないかもと思ってしまう。

あああ、中国が選挙CMでスケープゴートにされているという話題で書き始めたのに、なんか別の話で終わってしまった。まとまりがつかない!

アメリカン・コーヒー

1970年代の後半、まだ学生で、しばらくカリフォルニアに暮らしたことがある。サンフランシスコ郊外の大学町バークレーは、全米で最も若者文化の進んだ町と目されていたが、カフェやレストランで飲むコーヒーは、日本の喫茶店で「アメリカン」と注文すると出てくる、カップの底が透けて見えるような薄いコーヒーが常識だった。そのかわり安くて、BottomlessあるいはRefill Free、つまり「おかわり自由」。水代わりにガブガブ飲むものだった。

その後数十年でアメリカのコーヒーは、全く別の飲物になったと思う。今朝も駅前のStarbucksには店の外まで行列が出来ていた。家の近くの地下鉄駅は、近くの大きなオフィスといえばFDIC(Federal Deposit Insurance Corporation:日本の預金保険機構にあたる)ぐらいで、そんなに通勤客の多いところではない。地下鉄の中は飲食禁止なので、地下鉄に乗る前にコーヒーを買っていく人はいない。なのに毎朝、行列。

観察していると、Starbucksの周囲の道路に次々にクルマが停まる。降りてくるドライバーは、パーキングメーターに25セントコインを入れ、スタバの行列につく。5分、10分してコーヒーカップを持って出てくると、再びクルマに乗って走り去っていく。スーツ姿でオフィスに行く前にコーヒーを買っていく風の人も多いが、Tシャツにジャージージーンズの女性も多いーー子供を学校に送っていったあとにコーヒーを買いに来るのかな。スタバで2ドルくらいのコーヒーを買うために毎朝25セントをパーキングメーターに入れる。それでもスタバのコーヒーを飲みたい。

昼過ぎのワシントンDCのオフィス街。ランチを終えてオフィスに戻っていく人たちの多くがペーパーカップのコーヒーを手にして歩いていく。これも実によく見る光景。

アメリカ人はここ数十年でコーヒーを再発見したのだと思う。濃くておいしいコーヒーに恋をしちゃったんだと思う。「グルメなコーヒー」を飲むことがちょっと素敵なライフスタイルなんだと信じているんじゃないかと思う。

ネブラスカ州出身のブライアンは、実家の両親が淹れるコーヒーは薄くてまずくて飲めないと言う。「だから実家に帰るとクルマで10分走ってStarbucksに買いに行くよ。両親はボクの淹れるコーヒーは濃くて苦くて飲めないんだ」

ブライアンは現在東京で働いている。東京に赴任する前に日本語練習のパートナーをしていたのだけど、コーヒーの話のときに「日本のアメリカン・コーヒー」の話をしてあげた。

「日本の喫茶店には「アメリカン」というコーヒーのメニューがあるのよ。わざわざ薄めに淹れてくれる店もあるけど、普通のコーヒーに少しお湯を足して大きめのカップで出すところも多い。それでも、カップが大きいという理由で10円か20円、普通のコーヒーより高いのよ。アメリカンは日本ではまだ薄いコーヒーの代名詞なの」ーーそんな話で二人で大笑いした。

アメリカ人のコーヒー習慣を変えたのは何よりStarbucksだ。知っているようで知らないスタバについてちょっと調べてみると、シアトルに最初に店を出したのは1970年代の初めだったが、チェーン店として全米展開を始めたのは1980年代後半。海外進出の第一号店は東京で1996年とか。現在、アメリカ国内は1万店以上。カナダに1000店、日本は3番目に多い800店。Starbucksの名前は、メルヴィルMoby Dick(白鯨)に出てくる一等航海士の名前だ。『Moby Dick』はアメリカで教育を受ければ必ず読むであろうアメリカンクラシックスのひとつだから、誰でも耳なじみのある名前というわけ。ただStarbucksという言葉が普通名詞or動詞化して、I’m starbucking now.なんて携帯メールが届くことも。

Pick of the day(本日のコーヒー)とか一番安いコーヒーで税込み2ドルくらい。日本のスタバと違ってサイズは最小がTall。エスプレッソ類には小さいShortサイズがあるが、コーヒーはTall, Grande, Verdeの3種類。保温のきく大きなMy Mugに入れてもらってオフィスに出勤していく人も多い。

ご存じのとおり、スタバの成功で他にも数々の「シアトル系」カフェが登場した。従来からあるファーストフードチェーンもコーヒーに力を入れている。マクドナルドもコーヒーのメニューを増やした。Mac Cafeは日本でもやっていますね。 ダンキンドーナツは、いまやドーナツよりコーヒーブランドとして有名だ。スーパーのコーヒー売り場には必ずダンキンのコーヒーがおいてある。おいしいブランドという評価になっているらしい。テレビコマーシャルもしょっちゅう見る。例えば、こんなの。
http://www.youtube.com/watch?v=cbZKULIJwEE

こんなにコーヒー産業が盛んなのに、私はアメリカでおいしいと思えるコーヒーにあまり出会っていない。どこのカフェでも濃くて苦いコーヒーは飲めるが、香りのいいコーヒーにはお目にかかれない。一度だけ、ほんとに香り豊かなコーヒーをごちそうになったことがある。去年のサンクスギビングのディナーにお邪魔したお宅は、ご主人がローストしていないコーヒー豆を仕入れ、毎回ローストして挽きたてのコーヒーを淹れていた。そのコーヒーは香り豊かでほどよい酸味と甘味があって、本当においしかったけれど、色は濁っていなくて、凝った絵柄のコーヒーカップの底に描かれた模様が見えるくらいに透き通っていた。そう、「アメリカン」だった...

Telecommuting 在宅勤務が進むアメリカ

アメリカで働くオフィスワーカーの友人たちに話を聞くと、1週間のうち1日か2日は職場に行かず家で働くという人がとても多い。この在宅勤務のことを、telecommuting (電子通勤とでも訳せばいいですかね)あるいはteleworkと呼ぶ。

在宅勤務する人は、telecommuter, teleworker、あるいはweb worker。必ずしも自宅ではなく、カフェや図書館などで仕事をする人も多いのでnomad worker(遊牧仕事人?)と呼んだりもするのだとか。アメリカのTeleworkの現状を調べてみた。

現在、推計4500万人のオフィスワーカーが最低週に1日はteleworkをしている。アメリカの労働人口は1億3500万人くらいなので、ほぼ3分の1がteleworker。その数と割合はさらに増え続けるだろうと予測されている。

通勤はクルマが常識のアメリカで、通勤しないことのメリットは大きい。在宅勤務が可能な人が全員、週1.6日を在宅勤務にすれば1年に13億5000万ガロン(51億リットル)のガソリンが節約でき、その量は二酸化炭素排出量にして1180万トンに相当するという試算がある。こうした環境への影響だけでなく、一般にtelecommuterは、毎日オフィスで働く人より生産性が高い傾向があるそうだ。

企業にとってのメリットは、生産性が上がる、オフィス経費が減らせる、風邪など病気の流行を防げる、出産・育児・療養などで出勤できない有能な人材に継続して働いてもらえる、一定割合で身体障害者を雇用しなくてはならないという法律の要件を満たせる、(アメリカ国内は時差があるので)時差を超えたビジネスが可能になる、多用な文化に対応できる(日に何回もお祈りするイスラム教の人など)、何より従業員のモラル向上に役立つーーなどなど。人材採用に当たって「在宅勤務OK」は、優秀な人材を集める最大のインセンティブのひとつになっているとも。

働く側にとっては、仕事と家庭の両立を可能にする(ワーク・ライフバランス)、(自宅勤務だけにすると)年間15〜25日分にも相当する通勤時間と、年間4000ドル〜21000ドル(36万〜180万)もの通勤に関わる費用が浮く。

在宅勤務推進は政府の施策でもあって、首都ワシントンの政府機関など役所も在宅勤務化が進んでいる。2010年度までに政府職員の50%が最低週に1日は在宅で仕事ができるようにするのが目標ーー中央官庁の役人が家で仕事をしていてOKって日本では考えにくいですよね。

Telecommutingのデメリットは、もちろんある。企業側にとっては従業員を掌握しにくいことへの不安。調査では、管理者の75%がスタッフを信用していると回答しているが3分の1の管理者は、やっぱり見えるところで働いてもらうほうがいいと言う。働く側にとっては、自分だけ切り離されているような不安を感じることがデメリット。

セキュリティも懸念材料のひとつ。2006年に退役軍人省から社会保障データが流出したことがあって、セキュリティ問題がクローズアップされたが、この時の情報漏洩は在宅勤務者ではなく、オフィス内の臨時職員が流出させたもの。在宅勤務者は原則として事前に訓練を受けた信頼のおけるスタッフなので、 ほとんどの管理者はセキュリティについてはあまり不安を感じていない。むしろオフィスで働く臨時職員や採用したてのスタッフに不安を感じているという。

在宅勤務をはじめて最初の数ヶ月は、オフィスにいた頃より生産性が落ちる傾向がある。慣れない環境で、慣れないシステムで仕事をするためで、ほとんどの場合、数ヶ月で生産性はぐっと向上する。在宅勤務を認めるなら、長い目で結果を判断すべきだとか。

仕事の量を、労働時間ではなくて成果で測る仕組みが確立していて、管理者がそれに慣れていないと、在宅勤務制への移行は難しい。また、常時在宅勤務のスタッフは、昇給・昇進のチャンスに恵まれにくいーーというのが、Telecommutingの現状。

法律事務所で働く2児の母Leeは、毎週金曜日が在宅勤務日。小学校と幼稚園に通う二人の娘たちにとって、家に帰ると母親が迎えてくれる金曜日は特別の日だ。政府職員で新米パパのNevenは月曜日を在宅にしている。息子を保育園に迎えに行って一緒に過ごす午後は貴重な時間。奥さんのYvetteは同じ政府職員でも外交を扱う国務省勤務なので曜日で在宅を決めることは難しいが仕事をやりくって週に1日か2日は在宅にしている。

主人がお世話になっている会計士事務所には大勢スタッフがいるが、全員が家から仕事をしている。インターネットと電話で会議もするし、共同作業もする。

家が広くてオフィスと呼べる場所を確保しやすいアメリカと、なかなか書斎など望めない日本では住宅事情が違うし、クルマ通勤のホワイトカラーなど一握りしかいない日本では燃料消費に大差が出るわけでもないので、日本でTelecommutingを積極的に推奨する素地はあまりないかもしれない。

でも人に会ったり会議の予定がない日に、レポートや原稿を書いたり、数字を集計したり、集中して仕事をしたいことはある。東京でフルタイムで働いていた時には、週に1回、通勤しないで集中して仕事ができる日が持てたら、すごく仕事がはかどるだろうと思っていた。

私はこの2年半、前の会社から究極のTelecommutingをさせてもらっている。主に原稿のリライトや推敲・校正をしているのだが、13時間の時差はお互いものすごくメリットがあって、東京で一日の仕事の最後に私に向かって材料を送信しておくと、昼夜逆のアメリカで私が仕事をし、彼らは翌朝メールを開くと私が仕上げた結果が戻ってきているというワケ。東京で顔を合わせてやっていたときより時間が節約できて、お互いにジリジリ・イライラしないで仕事が出来ている感じ。

日本でも一部企業で成果が報告されているようですが、Telecommutingを働き方に取り入れると、社会のいろんな場面でメリットがありそうな気がしますね。

それと、子供たちには学校にいかないHome-schoolという制度が認められているんだけど、これについてはまたいつか。

世界でいちばん働きたい会社は?

The World’s Most Attractive Employers 2010

就職・採用コンサルティングと市場調査のUniversumが、世界12カ国の学生13万人を対象に行った「働きたい会社ランキング2010年版」を発表し、さまざまなメディアで取り上げられている。グローバル企業の企業イメージ調査のようなものなのだが、これから社会に出て力を発揮したい学生たちが、どんな企業や分野に可能性を感じているかトレンドが分かって、ちょっと面白い。

世界12カ国とは、アメリカ、日本、中国、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペイン、ブラジル、カナダ、インド、ロシア。調査対象となったのは「世界的に高い評価を得ている学校で学位取得を目指している学生」とのことなので、かなりの有名大学・大学院・ビジネススクールの学生たちに調査をかけたようだ。学生たちは働いてみたいと思っている会社を5つまで回答するという調査を集計したもの。

「ビジネス系TOP50」と「エンジニア系TOP50」が発表されて、どちらも1位はGoogle。ランキングを伝える経済ニュースのBloombergの記事は「食事も散髪もタダ、職場に愛犬を連れてきてもOKなど独特の企業文化が学生に評価されている」と伝え、「世界を変える課題に取り組んでいることが肌で感じられる職場」というGoogleの採用担当者のコメントを載せている。

ビジネス系2〜5位は、KPMG, Ernest &Young, PricewaterhouseCoopers, Deloitte。ビジネスの世界で『ビッグ4』と呼ばれる会計監査法人が並んだ。2010年の特徴は「会計監査法人の台頭」だと、どのニュースも報じている。

「accounting firm」あるいは日本語で「会計事務所」と言ってしまうとビッグ4の雰囲気は伝わらないかもしれない。最近は「auditing firm」と呼ばれることも多く、全世界にネットワークを持ち、会計監査から企業のファイナンスをベースに企業経営全般のコンサルティングまで行うビッグビジネスになっている分野だ。

学生たちがauditing firmを希望する大きな要因が、研修などトレーニングのシステムが充実していること。才能を磨いてくれるチャンスがあること、さらに、柔軟な働き方が出来る制度があることにも魅力を感じていると、Universumのレポートは指摘する。

今年のランキングでは、銀行&証券、(マッキンゼーとかアクセンチュアなど)経営コンサルティングの会社が軒並みランクを落とし、代わってauditing firmsが上位を独占した、というわけ。アメリカだけでなく世界12カ国の調査結果なので、これは世界的なトレンドと言えるのだと思う。

一方、エンジニア系ランキングは、1位Googleに続いて、マイクロソフトIBM、4位に昨年7位のSonyがランクアップ。5位にはクルマで唯一TOP10入りしたBMW。昨年は50位圏内に入っていなかったAppleが10位に大躍進している。

日本企業は、Sonyが前述のようにエンジニア系で4位、ビジネス系で13位。トヨタがエンジニア系18位、ビジネス系41位。トヨタは前年の圏外から大躍進と言える。リコール騒ぎの結果、よりオープンな企業を目指すと社長が宣言したことで評価が高まっているのかもしれない。日本企業は、この2社のみ。

クルマは、5位BMW以外にランクされているフォルクスワーゲントヨタ、フォード、GMの4社すべてが、昨年の50位圏外からランクアップ(エンジニア系)。代替エネルギー車の開発など次世代に向けた開発競争が活況を呈するクルマ業界が、あらためて成長分野と見られていることが興味深い。

2010年のランキングでは、史上初めて中国企業が50位内に入った。2004年にIBMからパソコン部門を買収したLenovoがエンジニア部門で44位に入っている。

技術面でも経営手法でも変化の激しい時代は、世界中の優秀で柔軟な才能をリクルートしていかないと企業は生き残れない。このランキングに載ること、つまり世界の学生たちに魅力的な企業と思われることは、グローバル企業にとってかなり大切なことなのだろう。

ランキング詳細はこちらで見られます。
http://universumglobal.com/IDEAL-Employer-Rankings/Global-Top-50

Oh deer! 後日談

8月の始めにカントリーミュージックの聖地ナッシュビルに遊びに行った話は以前に書いた。その帰り道で、鹿と遭遇。クルマが壊れてしまった余計なおまけのことも書いた。

その後日談。あれから6週間以上たって今週、ようやくクルマが戻ってきた。その間に、日本から私の友人や主人の姉夫婦が遊びに来て、9月に入って涼しくなり、主人はウイーンに出張に行って、私もあれこれ忙しく...


鹿と衝突してクルマをレッカー車でテネシー州ノックスビルという町のVolvoショップまで運んでもらったのは8月7日のこと。土曜日の午後で修理部門は翌週まで開かない。その日はクルマを預け、レンタカーを借りて、はるばる家まで帰ってきた。

私たちも、Volvoの人たちも、ラジエターに穴が開いたのとヘッドランプが壊れたくらいの修理だと思っていたので、また来週ですね、くらいの感じで別れた。

翌週早々に連絡してみると、ボディの修理が必要なのでボディショップにクルマを移動すると言う。ボディショップ(日本でいう板金工場)の名前が、Tennessee Collision だと。テネシー衝突? あんまりな名前じゃない?

そのTennessee Collisionのグラハムによると、全部のパーツが数日中に無事に揃えば、ボディの修理とペインティングを合わせて10営業日、翌週末までにはなんとかしたい、という話だった。

しかたなく、テネシーナンバーのレンタカーを借りたまま暮らし、翌週末にまた連絡してみる。「小さな部品なんだけど2つだけ届いていないんだ。来週半ばかなあ〜」

翌週半ば、再び連絡。「ようやく部品が揃って、いま作業中。作業が終わり次第、テストドライブして確認するから、夕方連絡するよ」

夕方。なかなか連絡がこないので、こちらから電話する。「う〜ん。見た目は完璧なんだけど、走ってみると、パワーが出ないんだ。エンジンに問題があるんじゃないかな。Volvoにクルマを戻して向こうで見てもらうから、数日中にVolvoから連絡がいくと思うよ」

翌日、Volvoに電話を入れる。「Tennessee Collisionから連絡は受けてるけど、まだクルマが届いていないのよ。明日届くはずだから、そしたらエンジンを診断してみるから」ちなみにVolvoのメカニック担当はバニーという名の女性。バニーガールのバニーだ。本人も笑いながらそう言っていた。(クルマ引き取りの時に会ったら「メカのことなら任せてよ」という感じの切れ者の中年女性だった)

この時点で、8月末。日本から友人や兄夫婦が遊びに来て、私たちも、もうどうにでもなれという感じで対応をほおっておいた。

結局、Volvoから診断結果の連絡があったのは、翌週の半ばだった。危惧していたとおり、エンジンに問題があるという。エンジン内部が水浸しになっていたそうだ。解決方法は二つ。ひとつは、エンジンを分解して中を掃除・修理して、もとに戻すーーこれには、時間がかかる(加えて、アメリカのメカニックの腕を信用していいか)。もうひとつは、高くつくがエンジンの交換。中古のエンジンを探してくれるという。

観念してエンジンの交換を依頼する。その日のうちに回答が来て、同じくらいの走行距離のエンジンが見つかったという。向こうのクルマからエンジンを外して運んでくるのに1週間。エンジンの交換その他で1週間、合わせて2週間かかる。

修理完了日は、主人のヨーロッパ出張に重なっていた。主人が出張から帰り、出張レポートやら精算やら残務を済ませ、私の予定のない日を選んで、ようやくクルマを取りに行けることになったのが、9月22日。鹿と遭遇したあの日から46日経っていた。

早朝4時、借りっぱなしだったレンタカー、フォード・フュージョンで家を出る。ヴァージニア州アパラチア山脈の西側を走る高速道81号線をひたすら走っていく。8月には緑にきらめいていた森林は、すでに紅葉が始まっていた。約500マイルの道程。ノックスビルのVolvo到着、11時50分。久々に対面した我が家のVolvoはボディをペイントしなおしたせいで、妙にすました顔で鎮座していた。

レンタカーを返しにいって、今度はVolvoで家路に着いたのが午後1時過ぎ。8時間かけて走ってきた道を、再び8時間かけて帰って行く。

朝4時過ぎに走ったときには、西の空に低く見えていたほぼ満月の月が、帰路の終盤には東の空に上がっていく。午後9時30分、無事なんとか帰宅。朝食がバーガーキングのブレックファーストサンド。昼食はWendy’sのサラダとチーズバーガー。さすがにファーストフードを2回続けると3回目を食べる元気はなく、家に帰って冷凍ご飯を温めてお茶漬け。

1日で1000マイル=1600キロのドライブは、二人で交替しながら走ったにしても、一日の走行距離新記録。Oh deer!な経験の後日談は、こうしてようやく終わったのでした。まったくもって貴重な体験ではあったけど、ホントに長かったぞ! 

年収10万ドル超の富裕層調査

Isposという調査会社が1977年以来続けている年収10万ドル超の富裕層を対象にした生活調査の結果が発表されて、いくつものサイトで取り上げられている。

簡単に概要をまとめると、今年の特徴は電子ブックやタブレットコンピュータの影響で「読まれている雑誌」数が16%も減少したこと。テレビを見る時間はほぼ横ばいの17.6時間、インターネットをする時間は12%も前年より増えて25.3時間になった。20代30代の富裕層は、一般に考えられている以上に広告を見ることに興味を持っていることも分かったという。

投資熱は覚めていて、今年新たな投資を考えている人は前年より7%減。海外旅行やクルーズを計画している人も前年より2割近く減った。逆に彼らの関心は家庭に向いている。今後1年の間に新しい家族の誕生を予定している世帯は前年より13%増えて220万世帯だとか。また、新車を購入予定の富裕世帯も24%増えている。

年収10万ドル以上の富裕層がアメリカ経済の消費を支えている、と調査概要は要約する。年収で10万ドル以上を稼ぐ世帯は、アメリカの全世帯の21%に過ぎない。この21%の世帯収入は、アメリカの全世帯の総収入の60%を占め、アメリカの富の70%を所有していると、最後にレポートは付け加える。格差社会アメリカの実像ですね、これが。

ここで気になるのが年収10万ドルに満たない残りの79%だ。アメリカの世帯年収のMedian(中間値)は5万303ドル(2008年)。Isposの富裕層調査の対象になるには、この倍を稼がなければならないわけだ。

アメリカの統計では必ずついて回る人種ごとの世帯収入を確認してみる。
白人(ヒスパニックを除く)5万5530ドル、ヒスパニック3万7913ドル、黒人3万4218ドルと、ヒスパニックと黒人世帯がガクンと総計を大きく下回る。ところで、アジア系だが、なんと白人世帯を1万ドルもしのぐ6万5637ドルで、人種別では最も裕福だ。アジア系は勝ち組に分類される。

そんなわけで、所得格差は人種格差の面もあり、差は徐々に広がっていて深刻なのだが、人種格差がないのに格差がどんどん広がっていく日本のほうがずっと深刻かな?