Telecommuting 在宅勤務が進むアメリカ

アメリカで働くオフィスワーカーの友人たちに話を聞くと、1週間のうち1日か2日は職場に行かず家で働くという人がとても多い。この在宅勤務のことを、telecommuting (電子通勤とでも訳せばいいですかね)あるいはteleworkと呼ぶ。

在宅勤務する人は、telecommuter, teleworker、あるいはweb worker。必ずしも自宅ではなく、カフェや図書館などで仕事をする人も多いのでnomad worker(遊牧仕事人?)と呼んだりもするのだとか。アメリカのTeleworkの現状を調べてみた。

現在、推計4500万人のオフィスワーカーが最低週に1日はteleworkをしている。アメリカの労働人口は1億3500万人くらいなので、ほぼ3分の1がteleworker。その数と割合はさらに増え続けるだろうと予測されている。

通勤はクルマが常識のアメリカで、通勤しないことのメリットは大きい。在宅勤務が可能な人が全員、週1.6日を在宅勤務にすれば1年に13億5000万ガロン(51億リットル)のガソリンが節約でき、その量は二酸化炭素排出量にして1180万トンに相当するという試算がある。こうした環境への影響だけでなく、一般にtelecommuterは、毎日オフィスで働く人より生産性が高い傾向があるそうだ。

企業にとってのメリットは、生産性が上がる、オフィス経費が減らせる、風邪など病気の流行を防げる、出産・育児・療養などで出勤できない有能な人材に継続して働いてもらえる、一定割合で身体障害者を雇用しなくてはならないという法律の要件を満たせる、(アメリカ国内は時差があるので)時差を超えたビジネスが可能になる、多用な文化に対応できる(日に何回もお祈りするイスラム教の人など)、何より従業員のモラル向上に役立つーーなどなど。人材採用に当たって「在宅勤務OK」は、優秀な人材を集める最大のインセンティブのひとつになっているとも。

働く側にとっては、仕事と家庭の両立を可能にする(ワーク・ライフバランス)、(自宅勤務だけにすると)年間15〜25日分にも相当する通勤時間と、年間4000ドル〜21000ドル(36万〜180万)もの通勤に関わる費用が浮く。

在宅勤務推進は政府の施策でもあって、首都ワシントンの政府機関など役所も在宅勤務化が進んでいる。2010年度までに政府職員の50%が最低週に1日は在宅で仕事ができるようにするのが目標ーー中央官庁の役人が家で仕事をしていてOKって日本では考えにくいですよね。

Telecommutingのデメリットは、もちろんある。企業側にとっては従業員を掌握しにくいことへの不安。調査では、管理者の75%がスタッフを信用していると回答しているが3分の1の管理者は、やっぱり見えるところで働いてもらうほうがいいと言う。働く側にとっては、自分だけ切り離されているような不安を感じることがデメリット。

セキュリティも懸念材料のひとつ。2006年に退役軍人省から社会保障データが流出したことがあって、セキュリティ問題がクローズアップされたが、この時の情報漏洩は在宅勤務者ではなく、オフィス内の臨時職員が流出させたもの。在宅勤務者は原則として事前に訓練を受けた信頼のおけるスタッフなので、 ほとんどの管理者はセキュリティについてはあまり不安を感じていない。むしろオフィスで働く臨時職員や採用したてのスタッフに不安を感じているという。

在宅勤務をはじめて最初の数ヶ月は、オフィスにいた頃より生産性が落ちる傾向がある。慣れない環境で、慣れないシステムで仕事をするためで、ほとんどの場合、数ヶ月で生産性はぐっと向上する。在宅勤務を認めるなら、長い目で結果を判断すべきだとか。

仕事の量を、労働時間ではなくて成果で測る仕組みが確立していて、管理者がそれに慣れていないと、在宅勤務制への移行は難しい。また、常時在宅勤務のスタッフは、昇給・昇進のチャンスに恵まれにくいーーというのが、Telecommutingの現状。

法律事務所で働く2児の母Leeは、毎週金曜日が在宅勤務日。小学校と幼稚園に通う二人の娘たちにとって、家に帰ると母親が迎えてくれる金曜日は特別の日だ。政府職員で新米パパのNevenは月曜日を在宅にしている。息子を保育園に迎えに行って一緒に過ごす午後は貴重な時間。奥さんのYvetteは同じ政府職員でも外交を扱う国務省勤務なので曜日で在宅を決めることは難しいが仕事をやりくって週に1日か2日は在宅にしている。

主人がお世話になっている会計士事務所には大勢スタッフがいるが、全員が家から仕事をしている。インターネットと電話で会議もするし、共同作業もする。

家が広くてオフィスと呼べる場所を確保しやすいアメリカと、なかなか書斎など望めない日本では住宅事情が違うし、クルマ通勤のホワイトカラーなど一握りしかいない日本では燃料消費に大差が出るわけでもないので、日本でTelecommutingを積極的に推奨する素地はあまりないかもしれない。

でも人に会ったり会議の予定がない日に、レポートや原稿を書いたり、数字を集計したり、集中して仕事をしたいことはある。東京でフルタイムで働いていた時には、週に1回、通勤しないで集中して仕事ができる日が持てたら、すごく仕事がはかどるだろうと思っていた。

私はこの2年半、前の会社から究極のTelecommutingをさせてもらっている。主に原稿のリライトや推敲・校正をしているのだが、13時間の時差はお互いものすごくメリットがあって、東京で一日の仕事の最後に私に向かって材料を送信しておくと、昼夜逆のアメリカで私が仕事をし、彼らは翌朝メールを開くと私が仕上げた結果が戻ってきているというワケ。東京で顔を合わせてやっていたときより時間が節約できて、お互いにジリジリ・イライラしないで仕事が出来ている感じ。

日本でも一部企業で成果が報告されているようですが、Telecommutingを働き方に取り入れると、社会のいろんな場面でメリットがありそうな気がしますね。

それと、子供たちには学校にいかないHome-schoolという制度が認められているんだけど、これについてはまたいつか。