紙を処分する!

(前回も書いたとおり)アメリカ赴任する前に、戸建ての家から少し手狭なマンションに引越をした。当時、私も主人も仕事が忙しくて、荷物の整理をするヒマもなく、移転先のマンションに入りきらない荷物はトランクルームに詰め込んでしまった。

私の仕事はシステム開発のマネージメントだったので紙の書類は少なく、ハードディスク数個に収まる程度の量で済んでいたが、主人は何というか「会議に出るのが仕事」みたいな人で、会議のたびに大量の資料を受け取り、その整理もつかないままに次の会議、次のプロジェクトと駆り出され、さらに職場に資料をおくスペースがないので、2週間に1度くらいの頻度で資料のつまった紙袋を両手にぶら下げて帰ってきて、廊下の隅だの階段の踊り場に積み上げられていった。

引越の際、そうした紙の山が業者の手で段ボールに治められ、そのままトランクルームに移動し、アメリカに赴任した後もそのまま放置され、毎月安くない保管料を払い続けてきた。

東京生活リスタートに際して、アメリカから船便が届く前に放置されてきた紙の山を整理しようと、連日トランクルーム通いをしている。24時間出し入れ自由ではないが空調完備で古い書籍などは家より保存状態がいいので長年利用しているトランクルームは、事情を話したら荷物整理用に開いている部屋に椅子とテーブルを用意してくれて、処分したい荷物はそこにまとめておけば、後で業者を呼んで処分してくれるという(ゴミ処分はもちろん有料だが)。ありがたい申し出。よろこんでお世話になる。

そんなわけで20年以上もかけてチリと積もった紙の山と格闘する日々。1週間ほど通って書類の山はほぼメドがついたが、あとは段ボールに詰め込まれた大量の書籍が残っている。夫婦揃って本を買い込むのが趣味のような我が家、前に済んでいた戸建ての家は、本の重みで2階の床が少し傾いたほど。同じ本をそれぞれに買ってきて2冊ずつある本もけっこうある。買ったことを忘れていて一人で2冊買った本もそこそこある。二人で4冊買った本もある。

私のほうは「本を読むのが好き」なので、買った本はだいたい読む。主人は「本を所有するのが好き」なので、買うと安心して積ん読状態。だいたい「老後に読もうと思って」学生時代に買ったというプラトンアリストテレスなどの哲学系の全集もの、さらには手塚治虫全集ーー全部揃えば400巻だが、あるのは半分くらい? 途中で勝手に解約したと、主人はこの件だけは今でも亡き母をうらんでいる。

私だけでも本を減らそうと書籍大整理を始めた。処分対象は「1『2度と読まない』が読後感想の本」。次いで「2:読みたくなったら文庫で簡単に買える」ーーいわゆるベストセラーの類。さらに「3:いまや青空文庫で電子版がいつでも読める」古典の類。

学生時代に読んで黄ばんでしまった夏目漱石芥川龍之介はそっくりゴミに。さほど傷んでいない本は段ボールに詰めて、まずは2箱、文庫が多かったので計180冊、BOOK-OFFに送ってみた。Webで申し込んでヤマト運輸が取りに来て、数日後に査定結果が届く。たいして黄ばんでないと思っていたのに、半分近くが対象外、つまりBOOK-OFFでは売り物にならないらしい。予想はしていたが「二束三文」とはこのことね、という査定額。最初から全額を寄付してしまうつもりだったので腹も立たないけど。

アメリカを発つ前に、あちらに持ち込んでいた日本語の本や、向こうで買って読み返すことはないと思う本を30冊くらい、お世話になったアーリントン図書館に寄付してきた。アーリントン図書館には日本語の本のコーナーもあって、そのうちに私の本が並ぶかもしれない。また、年に2回、春と秋に寄付で集まった本のBook Saleが開かれる。ハードカバーが2ドル、ペイパーバックが1ドルで売られ、そうとう黄ばんだ本も表紙が少し欠けている本も売られる。このBook Saleで買って、読み終わったのでまた寄付してきたものもある。

そんなふうに、読み終わったら寄付して、また誰かが1ドルか2ドルで買って読んで、また寄付して...みたいに回っているかもしれない。大量の本が寄贈されてくるので、図書館にはその整理のためだけに大勢のボランティアが関わっていると聞いた。Book Saleの時期が近づくと郵便で案内が届くが、案内の最終ページはいつもボランティアの名前が100人近く列挙されていた。本を無駄にしないで安く共有するシステムが、そんなふうに作り上げられているんだと思って感心していた。

本の処分の仕方としては、BOOK-OFFよりアーリントン図書館の方が、本にも人にも優しい。日本で調べてみると、そんな風にやっている図書館はないみたいで、手間をかけずに処分するなら、やっぱりBOOK-OFFになってしまう。

BOOK-OFFに180冊、それと同じくらいの量をリサイクルゴミの日に出したのに、本箱に開きスペースが出来たようには見えない。まだまだ道遠し... クリスマスもお正月も遠い気がする。