働く女性たちの足もと

ワシントンDCは政府機関や法律事務所、(日本でいうと○○協会とかの)公益法人など堅めの職場が多いせいか、通勤している女性たちの服装は概して地味だ。たいてい黒や茶色のパンツにジャケット。首から社員証などのIDカードをぶら下げて片手にブラックベリーiPhoneなどスマートフォンを手にして歩いている。バッグは、これまた黒や地味な色の大きめのショルダータイプ。

地下鉄の中で見かける彼女たちの中に、春から秋はFlip Flopsと呼ばれるゴム草履みたいなものーー日本のビーチサンダルよりは高級で革製だったりするがーーを履いている人が大勢いる。え? オフィスにゴム草履? と思うが、そうではない。職場のある地下鉄駅に着くと、彼女たちはショルダーバッグからひょいとハイヒールを取り出す。Flip Flopsをハイヒールに履き替えてキャリアウーマンのいっちょあがり。入り口でセキュリティチェックのあるビルに入っていく。こんな光景をよく見かける。

私は通勤しているわけではないが、週に2回ぐらい夕方の通勤時間帯に地下鉄でDC中心部から帰ってくるーーちなみに夕方の帰宅ラッシュはだいたい午後4時〜6時。6時を過ぎてしまうと地下鉄は空いてくるーー。夕方も同じことが繰り返される。ハイヒールで地下鉄ホームに降りてきた女性がバッグからFlip Flopsを出して履き替える。履いていたハイヒールは、無造作にバッグに放り込む。

バッグの中がどうなっているか見たことはないが、彼女たちは履き替えた靴をいちいち袋に入れたりしないで、そのまま無造作にバッグに放り込む。少なくとも、私が見かけた女性たちは、全員がそうだった。最初はちょっとびっくりした。ほかのものと一緒に靴をむき出しでバッグに入いれちゃうの? 多分、毎日のことなので、バッグの中に仕切りでも作ってあるのだろう、と思うことにした。

Flip Flopsで通勤するということは足はもちろんナマ足だ。いちいち履き替えたりしないで歩きやすそうな、かかとの低い靴で通勤している女性も大勢いる。そういう女性たちも、ほぼ全員、ナマ足。ストッキングは履かない。素足のまま靴を履いている。

素足で靴を履くと、実はあまり履き心地は良くないし、足に汗をかくと気持ちよくないですよね。なのでつま先とかかとを覆うくらいで靴を履くと見えなくなる程度の足カバーのようなソックスを売っている。そういうのを履いている人もいるとは思う。でも、見た目はナマ足。

2年くらい前だったか、どこかの中小企業で社長さんが「女性職員はオフィスではストッキングを履くように」という社則を作って女性職員が猛反発しているという事件が、全国ニュースに取り上げられて大騒ぎになったことがある。いろんなメディアが道行く女性たちにこの社則をどう思うかインタビューした映像を流していて、ほぼ異口同音に「ストッキングは履かない、特にオフィスでは絶対に履かない」と女性たちが答えていた。

結局、女性職員の反発と騒ぎの大きさにびっくりしたのか、この社長さんはストッキング着用を義務づける社則を撤回したそうだ。

「特にオフィスではストッキングは絶対に履かない」と答えた女性たちの言葉が象徴しているように、ストッキングは女性差別の象徴のようなイメージを持たれている。あるいはストッキングを履くことは、自分がとても保守的な女性であると自己表現をするようなものらしい。それに、単純に、”カッコ悪い”んだと思う。

でも、そこまで頑張らなくても、と思ったことがあって、昨年の1月、ちょうど大統領就任式前後でワシントンは最高気温でも氷点下10度くらいの極寒だった頃。あちこちでパーティが開かれていてパーティドレスの女性たちを数多く見かけたが、ドレスの上にコート。足もとはハイヒール。そして、ナマ足。タイツを履いてブーツを履いて、それでも寒かった私にしてみれば、そこまで頑張らなくてもいいんじゃないの?と思った。

青鞜(せいとう)=blue stockings が女性解放の象徴であった時代が、さらに進んで、no stockingsが進んだ女性の証拠ーー「無鞜」とでも呼びますかーー。でも。カラフルでお洒落なタイツはいいらしくて、すっかり冷え込むようになった晩秋のワシントン。今年の秋はブーツにタイツの女性たちをずいぶん見かけるようになりました。よかった、よかった。