みんなの英語

先週、Things that have changed the world(世界を変えたもの)というテーマでディスカッションする機会があった。私以外のメンバーは、アメリカ、韓国、台湾、ペルー、メキシコ、マダガスカルスロバキアなどバラバラな人種。インターネットとかクルマとかお定まりのものが出そろったあたりで、ふと「英語って、世界を変えたと思わない?」と話を振ってみた。「そうそう」「本当に、そう」と大きな賛同を得た。

最近「A Million Words and Counting」という本をパラパラと流し読みしている。この本のサブタイトルが「How Global English Is Rewriting the World」だった。和訳は出ていないようですが、タイトル・サブタイトルを訳してみると「百万語を越えて増殖中ーーグローバル英語が書き替えていく世界」てなことになるかな。

この本によると、いまや英語には100万語を越える単語があって、世界の英語人口は13億5000万人。世界中で飛び交うeメールの90%が英語で書かれている(この本2008年版)。

英語100万語に比べ、スペイン語は25万語、ドイツ語18万5000語、フランス語10万語、日本語は多いほうで23万語が使われているのだとか。英語だけがダントツに語数が増殖しているのには理由があって、ひとつには、英語は柔軟な言葉で、新しい言葉がどんどん作れてしまう。シェークスピアは1700語を創造し、トマス・ジェファーソンは150語を加え、(”英語がヘタ”とバカにされていた)ブッシュ前大統領は在任中に少なくとも新しい言葉を25は作ったそうだ(misunderestimated=間違って過小評価されている、というのも彼の作品)。

もうひとつの大きな理由は、世界中で使われているせいで、現地の言葉と混ざり合って新しい言葉がどんどん増え続ける。英語に入り込んだ日本語も多い。有名なのはtsunami津波)。霜降り牛のことはkobe(神戸)。この辺は誰でも知っている感じ。

最近びっくりしたのが、中学生がスペルを正確に言い当てる技能を競うNational Spelling Beeというコンテストでのこと。ファイナルは全国中継されるとても高レベルな伝統あるコンテストで、出題はWebsterとか辞書に載っている言葉から出されるのだが、その最終問題のひとつに、netsuke(根付け)という言葉が登場した。根付けはいまや英語の一部分、というわけです。(この問題を出された中学生は残念ながら答えられずここで敗退しました)

「英語は世界中で使われている」ことの実態。「英語を唯一の公用語としている」国は世界に32カ国ある。ところがその中にはアメリカもイギリスも含まれていない。32カ国、頑張って並べてみますか。

アンティグア・バーブーダバハマ、バルバドス、ベリーズボツワナ、ドミニカ、フィジーガンビア、ガーナ、グレナダギニア、ジャマイカキリバスレソトリベリアマーシャル諸島モーリシャスミクロネシア連邦ナミビアニュージーランド、ナイジェリア、パプア・ニューギニア、セントクリストファー・ネイビス、セントルシアセントビンセント・グレナディーン、シエラレオン、ソロモン諸島トリニダードトバゴウガンダザンビアジンバブエーーふう。これで32カ国。公用語は「英語だけ」という国。

続いて「公用語の『ひとつ』が英語」という国。20カ国ある。頑張るゾ!
カメルーン、カナダ、赤道ギニア、インド、アイルランドケニアマラウイ、マルタ、パラオ、フィリピン、ルワンダセイシェルシンガポールスリランカ、スイス、トンガ、ツバル、タンザニア、イギリス、バヌアツ。

イギリスは出てきましたが、アメリカはまだない。なぜ? 実はアメリカには公用語Official Languageという既定がないのです。そういう国で英語が主要言語になっている国、他にもありますーーオーストラリア、アイスランドサモア南アフリカ、そして、アメリカ合衆国

ここまで57カ国。「世界中で使われている」という実態が分かりますよね。さらに「相当数の人口が英語を使う国」というリストも掲載されていて、上記57カ国も重複するが102カ国の名前が挙がっている。この中に日本は入っているが、フランス、ロシアは含まれない。定義が書かれていないので分からないが、リストに挙げられた国は多分、義務教育で英語が教えられている国かな。フランスもロシアも実際にはインテリはみんな英語を流暢に話すけど。

それやこれやで世界の英語人口13億5000万人。英語を母国語として使う人は5億3500万人と中国語の10億5000万人には遠く及ばないにしても、世界のほとんどの国で通用する「みんなの言葉」になっている。世界各地で使われるうちに方言が出来て、文法が崩れたりもするが、そういう変化もぜんぜんOKというのが、英語の柔軟なところ。

特にアメリカでは、多少文法がめちゃくちゃだろうが、発音が悪かろうが、通じれば充分。きれいな英語を話せるに越したことはないが、英語の出来で人間を判断したりはしないと友人のアメリカ人の多くが断言する。イギリスでは事情が別。ある友人はアメリカネイティブで、フランス語も話すし日本で働いていたことがあるので日本語も上手という言語能力に長けた人ですが、ロンドンの小さな商店で買い物をしたときに、店のおばさんに「英語が間違っている」と直されたと笑ってました。「アメリカじゃありえないことだよね。買い物に来た客の英語を直すんだよ!」

まあ英国は別にすれば、ネイティブでなくても充分ふつうにやっていけるのが、英語圏のいいところでもある。中米ウルグアイ生まれで大学のときにアメリカに移住してきた友人はアメリカ農務省職員。現在東京に派遣されて働いている。クロアチア生まれの別の友人は高校の時にアメリカに家族で移住。ロースクールを出て今は弁護士。そんな彼もDVDで映画を見るときは英語の字幕を出しておくというから、なんか安心してしまう。

こんなデータも。アメリカ人の平均的な語彙数は1万6000語。教育レベルの高い人が認識できる語彙数75000語。アメリカの新聞で使われている単語数6000語。つまり英語には100万語あるけれど、実際にはビジネスレベルでも6000語が読めれば立派に通用する。 英語は、奥は深いけど、間口や敷居は低い言葉だと言えるかな。

日本の中学高校で習う英単語数は2000〜3000。暮らしていくにはこれで充分。ご主人の転勤でアメリカ暮らしになって、英語が出来ないと嘆く奥様たちによく会いますが、外国人に英語を教えているアメリカ人の多くが、日本人は語彙は多いし文法は頭に入っているし(文法がめちゃくなな外国人は多い)、足りないのは自信と慣れと勇気と言います。

話は冒頭のディスカッションに戻って「英語は世界を変えた」と私も思う。「みんなの英語」に参加すれば、世界とつながる。アメリカ・イギリスに興味がなくても、ツバルの人と地球温暖化についてお話しするにも、便利な言葉です。