Memorial Day 数十万台のバイクで埋まるワシントン

Rolling Thunder

5月30日(月)はMemorial Day:戦没者追悼記念日。もとは南北戦争戦没者を追悼する日として制定された国民の祝日ですが、今は戦争の犠牲になった軍人すべてを追悼する日。5月の最終月曜日なので、いつも3連休になります。

ワシントンはこの連休、全米から集まる大型バイクで埋まります。Rolling Thunderという団体が組織するVeterans(退役軍人)が大型バイクで首都に集結、アーリントン墓地から首都の中心までを”デモ”します。(「パレード」ではなくて「デモンストレーション(デモ)」だと主催者は主張している)

数日前からワシントン周辺のホテルの駐車場には、ハーレーとかBMWとかドゥカティとか高級大型バイクが並び、革ジャンや革ベストに星条旗のバンダナという、(アメリカ人らしく)どっしりした体格のおじさんたちがうろうろし始める。

アメリカでバイクは大人&金持ちの道楽。Memorial Dayの名を借りて、同好の仲間が集まる機会だくらいに思っていたら(実際、私が話をした若いアメリカ人の多くがそう思っていた)、恒例のこの行事にはもっと深い意味があることが分かってきた。

1987年のこと、ニュージャージーで二人の退役軍人が出会い、ベトナム戦争から帰還後に悲惨な戦争体験の後遺症に苦しむ人が大勢いるのに政府も社会も放置しているのを嘆き、何かしようと話し合った。(この時点で、すでにベトナム戦争終結から12年後のこと。アメリカが組織的な北爆、Rolling Thunder作戦を始めた1965年からは22年も後のことだ)

たまたま二人ともバイク好きだったので、次のMemorial Dayにワシントンに”デモ”を仕掛けて「自分たちの声を社会に届けよう」ということになり、全米の同好の士を募ったところ、1988年のMemorial Dayに2500人がバイクで集まった。これが始まり。

数千台のバイクが立てる轟音が1965年の北爆、ローリングサンダー作戦を思い起こさせることから、この名前を団体名とイベント名に使うようになった。第23回目の今年は、主催者の推定で、参加者と観客合わせて90万人。別のニュース報道では参加者40万人と言われている。

40万台のバイクに埋まるアメリカの首都、ちょっと壮観です。パレード、いや「デモ」の行われた日曜日は、参加者は正午までにペンタゴンの駐車場に集合。ペンタゴン国防総省)の駐車場は時々そばを通りますが、周囲数キロはありそうな広大なところです。ペンタゴンを出発後、アーリントン墓地を抜けてポトマック川を渡り、ワシントン中心のVietnam War Memorialまで”デモ”をするのが公式日程。

朝、散歩にでると、あちこちでバイクの轟音が響き渡っていた。家の近く、ワシントン中心部に通じるハイウエイを見下ろせるところで、何組もの老カップルやお年寄りグループが、ハイウエイを走ってくるバイク集団に手を振っていた。ライダーたちも気づくと手を挙げたり、警笛を鳴らして答えていく。私たちは5分くらい見ていましたが、その間に20台、30台という集団で通過していくライダーグループを十数回は見た。40万人が集結というのは、ウソでもなさそうだと思った。

今年でベトナム戦争終結からは35年、ローリングサンダー作戦からは45年が経っているのに、このイベントは年々に参加者が増えているらしい。アメリカが現在もイランやアフガニスタンで戦争をしていて、それが「ベトナム化」していることも人を引きつける要因かもしれない。

主催者の参加要領を読むと、戦争を経験した退役軍人である必要はなく、誰でも参加できるとあるが、ライダーたちを見ていると、多くが「お年寄り」と呼べる年代の人たち。年を重ね、現在は悠々自適の引退生活をしている人たちに見える。それでも、若いときの戦争で負った心の傷を、年に一度集まって連帯することで正気を保ちながら生きてきたのかもしれない。今年のRolling Thunderのテーマは「Ride for Freedom」。

国民の大半が「戦争を知らない世代」の日本人には、理解が難しいアメリカ社会の複雑さの一端を、垣間見たような気がしたMemorial Dayでした。