みんなのお気に入りTrader Joe’sは超優良企業

Mac5102010-05-19

私のまわりの友人にお気に入りのグロサリーストア(スーパーマーケット)を聞くと、7〜8割の人がトレーダージョーズTrader Joe’sと答えます。それぞれ価格の安さ、品質の良さ、オーガニック、種類の豊富さなど特徴を出して個性を競うアメリカのグロサリーストアの中でも、ひときわ個性的なTrader Joe’s。この店のショッピングバッグは日本のアマゾンでも売られているくらい、ブランドとしては日本でも知られている(らしい)。

私は学生時代にしばらくカリフォルニアにいたのでTrader Joe’sはなじみのある店でしたが、こちらの友人に話を聞くと、東海岸・ワシントン周辺にはこの5〜6年の間に出店してきて身近になった店らしい。長いカタカナ言葉はなんでも略語が自然発生的に作られる日本では、というかアメリカ在住の日本人の間では「トレーダージョーズ」は「トレジョー」という略称が定着しています。

そのトレジョー、 もともと1958年からコンビニを経営していたジョーさんが「Trader Joe’s:貿易屋ジョーの店」として、1967年にカリフォルニア州ロサンゼルス郊外の高級住宅地パサディナに第一号店を開店(今でもあるそうです)。

「自分で食べてみて美味しいと思ったものだけを販売しています。気に入らなかったら返金します」というのが方針。生産者から直接仕入れて質の良いものだけを安く提供する。同じ商品にいくつものブランドを揃えたりはしない、一番いいと思うものを自社ブランドで売るーーという方針が徹底されている。

私は日常的に足を運ぶグロサリーストアが7軒くらいありますが、気がつくとやはりお気に入りはトレジョーになっていました。

何がいいか。まず雰囲気が素朴でフレンドリー。店内の陳列棚やレジカウンターは、すべて使い込んだ感じの木製。棚の高さ160センチくらいと低いので店内が開放的に見える。棚に貼られた商品名などのPOPは印刷ではなくて手書き・手作り。黒板に新製品紹介が書いてあったりする。いつもコーヒーの試飲と何か新製品の試食があって、いくたびにコーヒーを飲みながら買い物をしている。スタッフの制服はアロハシャツ。アメリカはどんな店でもHow are you?とレジの店員が声をかけてきて、二言三言おしゃべりするのが普通だが、トレジョーの店員は特に元気が良くて気さく。

商品の8割以上がプライベートブランドTrader Joe’sブランド はどれも質が良くて、しかも安い。日本食材はTrader Joe San(トレーダージョーさん)、中国料理の食材はTrader Mings(トレーダーミン)、中南米系食材はTrader Jose(ホセ)、イタリア系食材はTrader Giotto(ジョット)など食材によって遊び心のあるブランド名をつけて楽しませてくれる。

他ではあまり買えない食材が見つかることも多い。アメリカのスーパーで薄切り牛肉はなかなか手に入らないが、トレジョーには「Shaved」(そぎ落とし)という名称の薄切り肉がおいてある。しゃぶしゃぶは無理だがたいていの薄切り牛肉料理はこれで充分。1ポンド(450g)が5〜6ドルととっても安くて、まあまあ柔らかい。

Trader Joe’sのことを少し詳しく調べてみようとウエブサイトやレポートを読んでみたら、みんなのお気に入りグロサリーストアは、アメリカ有数の超優良企業だった。以下は少し固い話になりますが、企業としてのTrader Joe’sをレポートしてみます。

各店舗は平均的なグロサリーストアより小規模で、商品数は平均を大きく下回り5分の1程度。一定の割合で常に新しい商品が導入されて、新商品は店内の目立つ場所に黒板に手書きの説明付きで展示される。商品価格は「平均より安い」とみんなが思っていて実際安いのだが、単位床面積当たりの売上は平均的なグロサリーの3倍と高い。

人材採用は厳選され、トレーニングが徹底される。コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップ、商品知識などを繰り返し研修するとか。新店舗の開店に際してはCEOが自ら新スタッフにトレジョーの理念を説明し「30日働いてみて仕事が楽しいと思えないのなら辞めてください」と伝えるのだという。

年間の離職率は4%。これは驚異的な低さで、アメリ労働省の資料を当たってみると全米の平均離職率は最近は不況の影響で辞める人が少ないので全体で18%まで下がっているが(不景気になる前は25%以上だった)小売業だと24%。日本の正規労働者の離職率が13%というから日本の標準に照らしてもものすごく低い。また、スタッフの70%がパートタイムだが希望すればフルタイム社員に応募できる。

日本のスーパーにもよくある会員カードのようなものはない(アメリカの大手チェーンにはたいていある)。会員だけが安く買えるようなビジネスはしない。誰もが同じように安くて良いものが買える。宣伝はほとんどしない。テレビCM、新聞広告、折り込みチラシはなし。ラジオCMを少しだけ。登録すると新製品情報のメールニュースが届くが、それも1年に数回。店に来て買い物する楽しみを味わってください、というスタンスだ。

これまでに全米24州に340店舗の店舗網を築いたが、すべて自己資金、無借金経営。自信を持って売れる商品だけを厳選し、人材は厳選するが福利厚生を含めた待遇は手厚く、仕事を楽しんで一生懸命働くスタッフを育て、事業の拡大には身の丈以上の無理はしない。「良いものだけを安く提供する。顧客も企業も従業員も一緒にハッピーになる」という企業理念を一切曲げない。

これって、四半世紀前にアメリカが日本に学ぼうとした日本的経営にとても似ていますが、オリジナルでこういう経営をして年間売上80億ドル(8000億円)企業に成長した。アメリカにもこんな会社があったんだ、って感じです。Money誌が調査した2009年度のカスタマーサービス優良企業で2位(1位は政府系の銀行です)、「アメリカで最も企業倫理に優れた会社」にも3年連続で選ばれている。

ライバルが商品ラインナップを真似ることはできますが、時間をかけて作り上げた企業文化はそう簡単に真似できないし継続できない。 ぜひ日本にも出店してほしいグロサリーストアですが、海外に出店するつもりは今のところないとのことです。残念ながら。