White House Correspondents’ Dinner

5月1日(土)の夜、ワシントンでは、この季節恒例のWhite House Correspondents’ Dinnerが行われた。

これは、ホワイトハウス特派員協会(WHCA White House Correspondents’ Association)が主催して行われる夕食会。大統領夫妻が出席して、普段の「真面目に政策を語る大統領に鋭い質問を浴びせるメディア」という構図を離れて、この時ばかりは大統領がジョークとユーモアをちりばめたスピーチでメディアを笑わせる。特派員協会は毎年ゲストスピーカーを選んで大統領のあとを受けてスピーチをするのだが、たいてい話術の巧みな人気コメディアンが選ばれる。

この伝統は1920年代から始まったもので、日頃は対立関係にあるメディアと政府がひと晩、垣根を取り払って楽しむのと、この夕食会で集められた会費や寄付を未来のジャーナリスト教育に当てるという基金集めの目的がある。

近年は参加者が政府とメディアだけでなくハリウッドの大物スターやミュージシャンなど華やかな顔ぶれが加わって「ワシントンのオスカー(アカデミー賞)ナイト」などと呼ばれる。特に昨年、今年はいまアメリカで最も席を確保するのが難しい夕食会と呼ばれているそうだ。

参加者3000人。席を予約できるのは特派員協会の会員のみで、ハリウッドのスターたちも会員の誰かを通じて席を確保するか招待されないと出席はできない。今年見かけたなかにはスティーブン・スピルバーグ、ボン・ジョビ、マイケル・ダグラス、ジョナス・ブラザース、冬期五輪の金メダリスト・リンゼイ・ヴォンなど。話題になっていたのは16歳のカナダ出身のシンガーソングライター、ジャスティン・ビーバーが来ていたこと。

夕食会の様子はCNNやMSNBCなどニュース専門局とワシントン政治専門チャンネルのC-Spanで中継され、東部時間で夜8時ごろに始まった夕食会は大統領スピーチが夜10時過ぎ(西海岸では7時)で11時頃まで続いた。各局とも生中継だけではもたないので、過去の夕食会の名場面集なども挿入されて、なかなか面白い内容だった。

オバマ大統領のスピーチは、期待どおり、ジョークとユーモアがたっぷりで笑わせてくれた。ジョークは社会背景を知らないと何が面白いのか分からないものが多くて説明するのが難しいが、比較的分かりやすいものを拾ってみると...

"Its been quite a year since I've spoken here last. Lots of ups, lots of downs, except for my approval ratings, which have just gone down. But that's politics, it doesn't bother me. Besides, I happen to know that my approval ratings are still very high in the country of my birth."

「昨年ここでスピーチをしてからいろんなことがあった。上がり調子もたくさんあったし、下り調子もいろいろ。私の支持率だけは下り一辺倒。でもそれが政治だから、気にならない。それに、私の生まれた土地では私の支持率は今でもとっても高いことが分かった」

と自分の支持率を笑いのタネにしたうえで「生まれた場所」もジョークにした。彼の生まれ故郷はハワイだとされているが、実はどこか外国なのでは?という噂が絶えない。もうひとつ。

"I wasn't sure I should actually come tonight. Biden talked me into it. He leaned over to me and said, "Mr. President, this is no ordinary dinner, this is a big BLEEP-ing meal."

「今夜ここにくるべきかどうか迷っていた。でもバイデン(副大統領)に説き伏せられた。彼がそばに来て言ったんだ『大統領、これはただの夕食会ではない。とても《ピー》な夕食会なのです』と」

《ピー》のところは実際にに大統領の言葉に《ピー》をかぶせて「F___ing」を消したのですが、これは今年1月の年頭教書スピーチの後で、大統領に握手をもとめたバイデン副大統領が「That was F___ing good」と大統領のスピーチを禁句を使って誉めたのを、マイクが拾って放送され、しばらくのあいだテレビのいろんな番組で冗談のタネにされていたのを使ったジョーク。

食事を運ぶウエイターがどうにか通れる程度の隙間しかなく3000人がびっしり詰まった会場は、終始笑いの渦。大統領のあとを受けてスピーチをした人気コメディアンのジェイ・レノより多くの笑いを、大統領は取っていました。

もともとアメリカの政治家にユーモアのセンスは必須科目。普通のスピーチでも数回の笑いが取れないと人々に聞いてもらえない。そんなアメリカの政治シーンでも特に練りに練ったジョークを用意して臨むのが特派員協会ディナーだという。

冗談が得意だと「ふざけている」と批判されるか、無理に冗談を言おうとすると言ってはいけない問題発言になってしまう日本の政治家とは土台が違うので、日本でこういう夕食会は望むべくもないのが、残念ですね。

ただ、この夕食会には批判もあって「政府とメディアは健全な緊張関係のなかにあるべきだ。こうして馴れ合ってはいけない」ということで、ニューヨークタイムスは2007年以来、夕食会には参加していないとのこと。まあ、ショーアップされたお祭り行事になっているのは確かですが、私はとても楽しく拝聴しました。

White House Correspondents’ Associationのサイトで詳細が見られます
http://www.whca.net/