噴火で足止め 思わぬ収穫シャンティーChantilly

Mac5102010-04-19

アイスランドの火山噴火のあおりでパリに足止めされて3日目。状況は好転するどころか、閉鎖される空港が増えています。焦ってもあわててもしょうがないので、その時できることをしていくしかない。

私たちは運良く火急の用事はないし、今のところルフトハンザがホテル(朝食&夕食付き)の面倒を見てくれているので、時間のつぶし方だけ考えていればいい状況。主人の仕事の出張だったのでビジネスクラスのチケットを持っていたことが幸いしたらしい。

ニュースを見ていると、宿泊は自費と言われて空港ロビーに泊まり込むしかない人も多く、いつまで続くか分からない状況に苛立っている人が大勢いる。

鉄道は1週間も先まで満席だし、レンタカーも売り切れ状態。ヨーロッパ域内の移動は、バスを用意してバスで客を運んでいる航空会社が増えている。例えばパリから北欧の国々まで十数時間のバス移動だそうだけど、航空会社にしてみればホテルの部屋を用意するより安上がりだし、客にとっては早く帰れれば、それに越したことはない。

フランスの山間部に家族で遊びに行ってこの騒ぎに巻き込まれ、ロンドンの自宅まで2000ユーロ(25万円)かけてタクシーで帰ったという人の談話が新聞のサイトに乗っていた。出費は痛いけれど家に帰れてホッとしている、と。

同じホテルに泊まっているドイツ・ハンブルグ在住のトルコ人一家は、小さな子供を3人抱えて両親とも疲れ切っているのだが、ハンブルグまでクルマで行く人を見つけたので、ご主人だけ乗せていってもらい、ハンブルグからご主人が自分のクルマでパリまで奥さんと子供たちを迎えに来ることにしたそうだ。パリからハンブルグまで片道12時間。ご主人は、パリ→ハンブルグハンブルグ→パリ→ハンブルグと、行ったり来たり12時間ドライブを3回することになる。無事だといいのだけど。

それでも、陸路で何とかなる人たちはいい。海を渡らなければ行けないアメリカや日本からのツーリストはそうは行かない。同じことが、他の大陸に旅行に行って帰れなくなったヨーロッパ人にも言える。どうなることやら。

アイスランドの火山が噴き出す真っ黒な雲の写真は不気味だけど、ヨーロッパの空が真っ黒に曇っているわけではない。昨日の土曜日のパリは快晴。泊まっているホテルからクルマで20分くらいのところに、シャンティーChantllyというお城がある。最初は別の古城に行こうとしたのだけれど、タクシーの運転手がChantillyのほうが絶対に素晴らしいと言い張るので騙されてみた。騙されて、良かった。

シャンティーは中世からいくつかの貴族が所有した城地なのだけど、1830年に大叔父のブルボン公から遺贈されて主となったオマール公というのが、なかなかの優れものだった。8歳で莫大な遺産を受け継いだ公爵は、その後アルジェリアでの戦争で活躍し、フランスに革命が起きたときはロンドンに20年以上亡命している。その間に豊かな資産を使って有名絵画を買いあさり、800点を越える名画のコレクションを集めた。このコレクションはフランスではルーブルに次ぐ規模だそうだ。

他にも、博学で親交が幅広かった彼はエジプトのピラミッドの出土品から日本の焼き物まで考古学的に興味深い品々も集めていた。さらに圧巻なのが、ライブラリ。活版印刷が始まる前の写本、初期の活版印刷本など貴重な古文書が13000点。皮表紙に金文字で装飾された古い書物が、2階分の高さのある吹き抜けの広い図書室の壁面をぐるりと囲んだ書棚に収められている。2階部分の書棚は、よく体育館の2階についているような渡り廊下でアクセスできるようになっている(写真)。本好きだったら、こんな図書室を持つのが夢だと思う。

絵画や書物のコレクションもすごいが、城そのもの、城の前に広がる小川が流れる広大な庭園も素晴らしい。小川の流れる庭園の一角にレストランがあって、そこでランチを食べた。おいしかった。

公爵は、革命の動乱の中で壊されたり散逸しそうな彫刻やらステンドグラスやら貴重品を他の城からも保護して、シャンティーの城を再建するのに使っている。自分の理想どおりに文化芸術を集めて城を再建したあと、公爵は、これを後世に残すために一風変わった遺言を書く。彼は、城も庭園も美術品も蔵書も一切合切をフランス学士院に寄贈してしまうのだ。そして条件をつけた。美術品・蔵書を博物館として一般に公開すること。陳列の仕方を変えないこと。外部に貸し出さないこと、などなど。

資産を私物化せず、保護して一般に公開する条件で、公の機関にすべてを譲ってしまうという遺言は、フランス革命をくぐり抜けた貴族の末裔の、非常にすぐれた判断だったのではないか。おかげで、快晴の土曜日、火山噴火で足止めされたパリで、思わぬ収穫に出会うことができました。

なお、こうしたシャンティーの情報は、城の入り口で借りられる日本語のオーディオガイド(3ユーロ)で仕入れた情報です。この手のオーディオガイドは、原語のへたな翻訳で聞くに堪えないものも少なくないですが、シャンティーのものはなかなか良くできていました。

ーーーと、ここまで書いたところで、空港が再開されれば乗る予定だった明日のフライトがキャンセルになったことが判明。再び空港に行って交渉してきました。次の開き席予約はほぼ1週間後になってしまうという。予約を取るより、空港が再開したらキャンセル待ちの列に並ぶほうが早いはず、というのが職員の説明でした。というか、もうこれ以上の手配はできない。空港が再開して飛行機を飛ばせるようになったら、とにかく来て、という方針に切り替わったらしい。航空会社払いのホテルもこれ以上は出せない、と。

さて、本格的に長期戦になりそうです。幸い主人と一緒だし、資金が底をつくこともなさそうなので、なんとか頑張ってみます。やれやれ...