肥満大国のFood Revolution

医療保険改革がどうにか実現に向けて動き出した裏で、もうひとつ、医療に関連するアメリカの大問題が「肥満」。成人の30%以上がBMI数値で「肥満」に分類される。日本人の肥満率は3.2%で先進国では最も少ない国のひとつ。アメリカはもちろんダントツ世界一だ。
さらに深刻なのが子供世代。子供の4割以上が「肥満」で、アメリカの歴史始まって以来「親の世代より早死にする世代」になるだろうと言われている。そこで、肥満対策プロジェクトがあれこれ進行している。

◆ライバルも手を組んで(コカコーラとペプシが仲良く登場するCM)

子供はみんな大好きなシュワシュワでお砂糖たっぷりのコーラ。学校で売られるコーラを「フルカロリー」つまり普通のコーラから、ダイエットやゼロカロリーへの切り替えが進んでいる。すでに学校で売られるソフトドリンクの88%が「フルカロリー」ではなくなったそうで、その成果をアピールするCMが、盛んにオンエアされているのだけど、ライバルのコカ・コーラペプシコーラが仲良く並んで登場するという世にも珍しいCMです。
http://www.youtube.com/watch?v=NpHzskSyKc0

でも、本当はこれだけじゃ肥満対策になっていない。飲物が甘くあるべき、という意識の切り替えを進めないと、肥満の解消にはつながらないと思いますが。


◆Food Revolution

肥満対策をテーマに、ABCテレビが先週からスタートさせた番組がある。Fppd Revolutionというタイトルで、アメリカで最も肥満が原因で死亡率が高い町というありがたくないレッテルを貼られたウエスト・ヴァージニア州のハンティントンに、イギリス人のカリスマシェフ、ジェイミー・オリバーがやってくる。この町の人々の食習慣を変えよう、というプロジェクトが始まるのだが、初回に紹介されたことがアメリカの食習慣の現実なら、そうとう衝撃的だった。

まず、小学校を訪れる。「朝食プログラム」つまり朝食の給食。登校してきた子供たちは食堂でまず朝食を食べる。(家で朝食は食べないのかな 2度食べちゃう子供もいるよね)

メニューは、何と、朝からピザ!。それにコーンフレークがつくが、普通なら白いミルクをかけるところを、子供たちが選んでいくのはチョコレート味やイチゴ味のミルクばかり。「朝食プログラム」は子供が体に良いものを食べて健康に育つことをサポートするプログラムのはずなのに、これじゃ逆効果と言えなくもない。

続いてランチタイム、昼食メニューはチキンナゲットにフライドポテト。またしてもチョコレート味かイチゴ味のミルクがつく。一応、生のリンゴが配られる。給食の食材はほとんど冷凍加工品で、生の食材を使ってゼロから作る料理はまずない。

給食には食品分類ごとの摂取量の目安があるが「フライドポテト」は「野菜」に分類されるそうだ。なので毎日のようにフライドポテトが「野菜」として子供たちに出されている。さらに、ここはアメリカ。何をどれだけ食べようが、残そうが自由。嫌いなものは全部残しても誰も文句をいわない。

子供たちにランチを配りながら、シェフのジェイミー・オリバーが「昨夜は何を食べた?」と聞いてまわる。子供たちは無邪気に「ピザ!」「チキンフライ!」「ハンバーガー!」と、給食で出されているものと変わらないメニューを答えていく。

ジェイミー・オリバーが、両親も子供たちも全員肥満体型の、ごく平均的な家庭を訪れて、1週間に家で食べたものを再現してもらってテーブルに積み上げるシーンがあるのだが、グリーンのものがひとつもない。全部「ゴールデンブラウン」の食事ばかり。冷凍庫を開けると、冷凍ピザがぎっしり詰まっていて、最も頻繁に使う料理器具はフライヤー(揚げ物を作る調理具)だという。

こうして、毎日、ピザとハンバーガーとチキンナゲットとフライドポテトをチョコレートミルクとコーラで食べて「大きく」育っていく子供が増えていく。

これは本当に深刻なことです。人間は習慣の生き物だから、そう簡単に食の好みは変えられない。世界で人気のカリスマシェフが、砂糖と油が骨まで染みこんだアメリカ人の味覚をどこまで変えられるのか、番組の成り行きに注目しています(初回を見た限り、住民から猛反発を食らっていました)。

◆ファーストレディのプロジェクトLet’s Move

肥満対策はファーストレディ、ミシェル・オバマが積極的に推進しているプロジェクトでもある。「Let’s Move」と呼ばれる彼女のプロジェクトのサイトに行くと、食習慣を変えて肥満を減らし、健康的な世代を育成するための情報が紹介されている。ミシェル夫人ホワイトハウスの庭で地元の小学生と一緒に無農薬野菜を栽培しているのは有名で、子供たちと泥まみれで畑仕事をしている様子がたびたびニュースになる。
http://letsmove.gov/

サイトで紹介されるミシェル夫人のメッセージは、「ホワイトハウスに来る前、夫も私も忙しく働いていて、食事の支度をする時間がなく、ファーストフードや出前のピザに頼ることが多かった。その影響は子供たちにすぐに現れて、主治医からもっと健康的な食事を心がけるように指導された」という話で始まる。

両親ともに忙しく働いていて食事の支度をするヒマがなくても、電話1本でピザが届く。あるいはクルマで5分行けばハンバーガー店がある。そして、こうした食事は安い。一人分5ドル以内で食べきれない量のピザやハンバーガーやポテトが出てくる。忙しく裕福でない家庭は、どうしたってファーストフードに頼ることになる。統計によると、1年365日、毎日欠かさずファーストフードを食べている子供が3割いるそうだ。アメリカの肥満は、実は、所得格差の問題でもあると思う。

GDPの16%が医療費・「減量控除」もある

アメリカの医療費は国民1人当たり7681ドル(約70万円)。GDPの16.2%を占め、もちろんダントツ世界一だ。2位のフランスが11%、日本は8.1%とアメリカの半分。国民の肥満を解消して糖尿病や心臓病の患者が減れば、医療費は劇的に減らせる。乳ガンや大腸ガンも(アメリカでは)半数近くが肥満によって引き起こされているという。肥満対策は、医療保険改革と表裏一体の問題。

アメリカにはWeight Loss Deductionという減税措置がある。病院などの減量プログラムに参加すると、その参加費や経費が税金から控除されるというもの。(実際に減量に成功したか、その結果は問われない)

こうして民間から政府まで、社会のいたるところで肥満対策、健康的な食習慣が呼びかけられているけれど、ここから先はまた、アメリカならではの議論に戻ってしまう。

つまり「好きなものを好きなだけ食べる自由」は保障されなくてはならない。まあ、だから肥満になるのも、病気になるのも、自由なんだけど、放っておくと医療費で国家財政が破綻する。

そのうえ「私が肥満になったのは、お宅のハンバーガーのせいだ」といってマクドナルドを訴える人がいるのも、アメリカなのです。ああ、ややこしい!