Food Network「アメリカ版料理の鉄人」新春特番

料理、あるいは食べることだけに特化した番組を一日中放送しているケーブルテレビ局がある。Food Network。http://www.foodnetwork.com/

全米で9000万世帯が視聴しているとされ、ケーブル局のWebサイトではダントツのアクセス数を誇るネットワークだ。今年からはヨーロッパ、アフリカなどに続きアジアでの放映も始まるらしい。

朝から昼間の番組は、だいたい1番組が30分の料理番組。番組ごとに”パーソナリティ”がいて料理を実演する。30 Minutes MealのRachel Ray, Everyday ItalianのGiada De Laurentiis、南部訛りで豪快な料理を作るPaula Deanなどが人気のシェフたち。

私はレイチェル・レイRachel Rayの番組がとても参考になる。彼女はスーパーマーケットで働いていたときに売り場の食材を使って料理を実演したのが評判になり、テレビにスカウトされて自分の番組を持ち、本まで出版するようになったという一種のシンデレラストーリーの持ち主。30分でメインからサラダ、デザートまで、本当に玉ネギの皮を剥くところから始めて料理を仕上げてしまう(出来上がったのがこれです、と別の鍋を出してきたりは絶対しない)。絶え間なく楽しいお喋りをしながら手際よく料理を作っていく気さくな人柄で、料理番組を超えて国民的人気を誇るパーソナリティだ。

夜の番組は、料理の実演とはちょっと離れたバラエティになる。例えば「Unwrapped」はアメリカの食品ブランドを紹介してくれる番組。食品ブランドの歴史や製造現場の裏側を知ることができる。「Diners and Drive Ins」は全米各地の大衆的なレストランをGuy Fleriというちょっとタフガイ風パーソナリティが食べ歩く番組。また「Next Food Network Star」は、年に一度新しい番組パーソナリティを約10週に渡ってオーディションしていく番組で、これも楽しみのひとつ。

週末のFood Networkの人気番組のひとつに「Iron Chef Americaアメリカ版料理の鉄人)」がある。この番組は、かつてフジテレビ系がやっていた「料理の鉄人」のコンセプトとフォーマットをそっくりアメリカ版として再現しているもの。冒頭で「日本で始まった伝統がアメリカの地に根付き〜」と説明が入るし、最後にはフジサンケイの目玉マークが大写しになる。

日本ではとうの昔に終了した番組が、アメリカではまだまだ人気で「Next Iron Chef」という次の鉄人を選ぶ派生番組まで登場している。「Next〜」は10週くらい続く料理対決番組で次世代の鉄人が最後に決まる。最終の2回前・3回前の料理対決は東京ロケだった。日本版「料理の鉄人」の解説者だった服部先生が審査員に加わって「弁当」対決や「会席」対決が行われた。

さて、この「Iron Chef America」の「新春特番」が1月3日に放送された。”料理番組史上最高のプログラム”などと大げさに宣伝されていた番組で、舞台はホワイトハウスアメリカ版Iron ChefのMario Bataliが、スーパーシェフEmeril Laggaseとチームを組み、もう一人のIron ChefのBobby Flayがホワイトハウスの女性Executive Chef(総料理長)Cristeta Comerfordとチームになって料理対決をするというもの。ホワイトハウス前庭に集まった4人のシェフの前にファーストレディ、ミシェル・オバマが登場して、Secret Ingredientと呼ばれるテーマ食材を「ホワイトハウスの菜園に実っている野菜ならどれでも」と告げて対戦がスタートする。

ホワイトハウスの菜園は、ミシェル夫人ホワイトハウスに引っ越してきた直後から始まったプロジェクトで、(肥満が深刻な)アメリカの子供たちにヘルシーな食生活を知ってもらう目的で、オバマ一家と地元の小学生がオーガニック野菜を栽培している。ニュースでは何度も報じられたが、菜園をじっくり見せたはこの「料理の鉄人」が初めて。それぞれ少量ずつだが実に多種多様な野菜が栽培されていた。Japanese Eggplant (なす)や小ぶりの大根、サツマイモなど和野菜も何種類か実っていた。

さて番組は、どちらのチームも実に手のかかった料理を5皿を仕上げた。Batali & Laggase組はこってりした料理、Flay & Comerford組はあっさり系。勝ったのはもちろんホワイトハウス総料理長を擁したFlay & Comerford組で、若干出来レースだったような気がするが、成功しているFood Networkをホワイトハウス広報が実にうまく使った番組だった。

Food Networkは、昨年こちらに暮らし始めて英語に耳が慣れない頃、ひたすら見続けたチャンネルのひとつ。目で見て分かることを英語で聞くので理解しやすく、出演者が自然な会話で話すので耳を慣らすのにとても役立った。料理or食べること好きだったら英語に不自由でも多分はまってしまうと思います。

レシピを満載した月刊Food Network誌も出版されているし、webサイトは毎日の献立のヒントも豊富と、他のメディアとの相乗効果も結果をだしている。1日24時間365日、食べることだけでチャンネルがひとつ成立する。新しいテレビが成功例としても、とても興味深いネットワークです。