Latino in America

木枯らしの11月。急な仕事やらイベントやら、忙しくしていてご無沙汰しました。

今週月曜日から夜11時台に新しいトークショー番組が始まった。アメリカの夜のテレビは、人気ホストによるトークショーが盛んで、政治や社会ネタを笑い話にして笑い、話題のゲストのトークを聴き、何となく良い気分で1日を終わる、というスタイルが定着している。トークショーのホストは10年15年と番組を続けている人気者が多くて、新しいトークショーのホストになるのは並大抵のことではない。

で、今週始まった新しいトークショーは Lopez Tonightという番組。人気コメディアンのジョージ・ロペスがホストを務める。彼はカリフォルニア生まれだがメキシコ系アメリカ人。ハイボルテージで下ネタも多いトークで観客を笑わせる。ヒスパニック層には絶大な人気を誇るコメディアンだ。

史上初の黒人大統領を誕生させたアメリカが、次に抱える人種問題はヒスパニック。最近では彼らをLatino、ラティーノと呼ぶことが多い(自らもLatinoの方が快適らしい)。ヒスパニック/Latinoの定義は難しくて、中南米スペイン語圏の国からアメリカに移住した人たちだと思うが、白人・黒人のように外見だけでは分けられない。

知り合いになったホンジュラス出身の人の説明では、例えばホンジュラスには移植した白人のコミュニティーで出来ている都市は人口の多くが白人だし、奴隷制時代にアフリカから奴隷をアメリカに運ぶ途中の船が遭難して漂着したことから黒人人口が多くを占める地方もあるという。「ラテン系」と私たちが思い浮かべる肌の色がややダークな(Brownと呼ばれる)ラティーノの他に、外見はまるで白人に見えるラティーノもいれば、黒人のラティーノもいるわけです。

アメリカは人口3億人のうち、白人人口は66%、ヒスパニック15%、アフリカ系アメリカ人14%、アジア系アメリカ人5%というのが、2008年の人口統計データ。これと一緒に発表された2050年の人口予測では、白人46%、ヒスパニック30%、アフリカ系15%、アジア系9%。白人が5割を切ってヒスパニックが倍増。Majority(過半数)と呼べる人種はなくなって、みんながMinority?(もはや人種で分けることが意味を失う。それはそれで良いことかもしれない)

ところで、この人口統計には、1000万とも言われる不法移民の数は含まれていないはずなので、皮膚感覚としては人口の2割以上がヒスパニックのように感じる。いたるところでスペイン語が聞かれ、商品のパッケージから銀行のATMまで英語・スペイン語併記が当たり前。

アフリカ系(黒人)は英語を話し、白人文化のなかで階段を上がって大統領までたどり着いた。ヒスパニックは英語を話さない割合が高く、独特の文化でアメリカ社会に根付いている。ヒスパニック女性の約半数が20歳になるまでに母親になり、家族を大切にするという文化から家族の世話や家の仕事を優先するので学校の出席率が低く18歳でハイスクールを卒業する割合が5割を切る地域もあるという(残りの多くがドロップアウトだ)。こうして、相対的に学歴が低いので収入は少なく、多産なので家族が多いから生活は苦しい。貧困層は必然的にヒスパニック層に多くなる。

周囲を見渡してみるだけでもそれは分かる。例えば住んでいるアパートのスタッフで、フロントやマネージメントはアフリカ系が多いが、掃除やメンテナンスをしているのはみんなヒスパニックだ。いつも機嫌良く挨拶してくれるが、英語を話さないのでややこしい頼みごとをするのは大変(こちらの英語力のせいもあるけど)。工事現場、レストランの掃除係、社会の最下層の仕事をしているのは概してヒスパニックの人たちだ。

もちろん、成功して社会的地位の高い仕事をしている人たちも大勢いるし、陽気で人なつこくて音楽とダンスをこよなく愛するLatinoの人たちは、話してみるととても楽しい。

それでも、膨れあがるヒスパニック人口をどうするのか。彼らを孤立させることなく社会に溶け込ませ、人種が融合したアメリカ社会を作ることが求められている、というわけで、ヒスパニック/Latino話題が目立つようになってきた。

オバマ大統領が最高裁判事に史上初めてラティーノ系のソニア・ソトマイヨール女史を指名したことは格別に大きなニュースになったし、10月にはホワイトハウスで「Fiesta Latina(ラテン祭り)」が開かれて、ジェニファー・ロペスグロリア・エステファンなどなどLatinoの有名人が多数出演する賑やかなコンサートが開かれた。もちろんジョージ・ロペスも参加して「オバマはほとんどLatinoだ。自分のものでない家に住んで、チェンジすると言ってるのに誰も信じない・・・すごくLatinoだろう?」と観衆を笑わせた。(他人の家に転がり込んで住み始める、約束したとおりのことをしない、というのがLatinoの特徴のように思われているというわけ)

CNNはLatino in Americaという特集番組をシリーズで放送している。「Garcias」と名付けられた番組では、ラティーノ向け食材会社で成功したガルシアさんから、弟妹の世話をしながら英語が話せない母親の代わりに店番をし、それでもなんとか高校を卒業しようと必死で勉強する女子高校生まで、さまざまな「ガルシア」さんを取り上げていた。ガルシアというLatinoの名前は今では、アメリカで多い名字のトップ10に入るようになったという。

そんななかで始まった夜のトークショー、ジョージ・ロペスのLopez Tonight。最初の2日分を見たけれど、両日とも観客がぎっしり詰まったスタジオに大歓声のなか登場して「みんなすばらしい! 白人、アフリカ系、アジア系、ラティーノ、年寄り、若者、あらゆるバックグラウンドの人たちが一緒にいる。これがアメリカだ!」と人種を越えてみんなで盛り上がろうぜ!というメッセージを語った。彼本来の切れ味鋭いトークとはちょっと違うような気もするが、ジョージ・ロペスが夜のトークショーをやることの意味は、まさにこのメッセージにあるのだろうと思う。

先日、家の近くを歩いていてLatinoの人にスペイン語で道を聞かれた。英語はしゃべれないという。私がアジア人だってことは見れば分かるだろうに、私に聞かなくても...  I'm sorry I don't speak Spanishと謝ったけれど、少しスペイン語の勉強でもしようかと思う今日この頃です。

なおLopez Tonightは、このサイトで前日の映像が見られます
http://www.lopeztonight.com/