寄付の季節

10月はまだ半ばだというのに、アメリ東海岸は数日前から急に気温が下がり、北の方では雪になっているらしい。ワシントンは一昨日からずっと冷たい雨。昨日から日中でも気温は8度くらいしかない。あわてて手袋や帽子を出してきた。冬が近い。

アメリカの個人所得の申告は日本と同じで毎年1月〜12月で区切る。10月半ば、暖房を入れはじめると、年度末の所得申告の準備が始まる季節だ。このところ、新聞の折り込みやダイレクトメールで、NPO組織のリストが届く。

アメリカには、寄付をすると税金が控除になるNPO:Non-Profit Organization:非営利団体が150万以上ある。そのうちPublic Charitiesと呼ばれる公共団体(例えばYMCA、赤十字ボーイスカウト、大学、教会、病院などなど)が約95万団体、Private Foundationと呼ばれる民間の組織(例えば、ビル・ゲイツ財団とかフォード財団とか)が約11万団体、その他は全国各地の市民リーグとか商工会議所とか大学同窓会組織など多種多様の組織が44万団体ほど。
これら150万団体がそれぞれ寄付を求めているわけだが、この時期には、The Best Charities in DCとか、Charitable Choices 2009とか”お奨め団体リスト”が作られて届くというわけだ。

リストには、動物&自然保護、子供の福祉や病院、教育、災害援助、貧困層やホームレス救済、囚人教育、医学研究、軍隊、法律サービス、メンタルヘルス、海外援助などなどありとあらゆるジャンルが並び、団体の名前と簡単な活動内容、統一のコード番号が振られている。

手元に資料がないので正確な数字ではないが、こうしたNPO組織の活動はアメリカのGDPの15%とも20%とも言われるボリュームを占めるという。2007年の資料では、寄付金総額は2800億ドル(28兆円)にのぼり、そのほとんどが個人からの寄付。企業・団体の寄付は1割にも満たない。寄付をすれば税金が控除されるので、何か問題意識のある人は、その活動を行っているNPOに寄付をする。

自分のお金の使い道は自分で決めたい、医療保険からサンドイッチのトッピングまで、何ごとにも「選択の自由」が保証されることが重要なアメリカ社会ならではの特徴だ。逆に言うと、市民の善意を前提に成り立っている社会とも言える。(ただしPublic Charitiesは、寄付金収入は22%程度で、予算の大半は政府などから支給されるそうだ)

政府職員の友人イベットによると寄付をするのは簡単だという。「職場でリストが回ってくるのよ。寄付する先を選んで金額を記入しておくと天引きされるの」だそうだ。「税金を払うのは大切なことだけど、ある程度は自分が何とかしたいと思っているところに直接寄付する方がいいから」という。

ただ国務省ヨーロッパ担当でヨーロッパ生活も長いイベットは「ヨーロッパはアメリカほど寄付の習慣がないかわりに福祉がしっかりしている。医療や老人福祉、貧困対策などヨーロッパでは政府が面倒を見ている部分まで、アメリカは民間の活動に頼っている。この社会の仕組みが本当に良いことなのか疑問だと思う」とも言う。

「日本はどうなの?」と聞かれて、「日本の社会は原型をイギリスなどヨーロッパの国をお手本に作ったから、ヨーロッパに近いかな。それに日本では寄付をしても税額控除を受けるのはほとんど無理なの」という説明をした。

亡くなった父は赤十字にまとまった寄付をしていたが、毎年確定申告の時に寄付金控除で税務署ともめていた。父が税務署のことで文句を言ったのは寄付金の控除のことしか記憶にない。私自身は東京で働いていた時は、ユニセフ国境なき医師団に少額ながら寄付を続けてきたが、税額控除を考えたことはなかった。「税金を払う代わりに寄付をする」というアメリカ的考え方は日本では通用しない。税金はフルに支払った上で、寄付はポケットマネーから出すしかない。当然、アメリカのようにNPOの活動が盛んになるわけにはいかない。

こちらで多国籍の友人たちと国際比較の話に発展すると、ほぼ必ず行き着く結論があって”No country is perfect”。この時も、そんなところで話が終わった。