WOODSTOCK 40周年

1969年8月15日〜18日、マンハッタンから100マイルほど離れた牧場地帯で野外コンサートが行われた。Woodstock。
ベトナム戦争反対と黒人や女性への差別撤廃を訴える公民権運動で国中が揺れているなかで「Three Days of Peace and Music」をテーマに当時の人気アーティスト総出演のイベントは、主催者たちの予想(15000人からせいぜい5万人と思っていたらしい)をはるかに超える50万人の若者が集まった。十万人単位の野外コンサートは今では珍しくないが、当時は前例がなかった。

あの日から40年が経って、今週末のアメリカはWoodstock40周年にちょっと沸いている。

Woodstockは、当時20代だった4人の若者によって企画された。ボブ・ディランジャニス・ジョップリンジミ・ヘンドリックスなどが住んでいたニューヨーク郊外のウォールキル近くの農場を借りて野外コンサートをする予定だったのが、周辺住民の反対にあってその場所が使えなくなってしまう(長髪でマリファナでラリっている若者が大勢集まってくると思ったら、住民が反対するのは無理ないよね)。

その時、少し離れたところに農場を持っていた人が場所 の提供を申し出て、そこが会場になった。
3日間のコンサートには、カウンターカルチャーを標榜する当時の人気者たちが勢揃いした。 Jefferson Airplane、Creedence Clearwater Revival、Joan Baez、Santana、Grateful DeadThe WhoJanis Joplin、 Joe Cocker、Ten Years After、The Band (ボブ・ディランはヒッピーが嫌いだと言って出てこなかったそうだ)、Blood Sweat And Tears、Crosby, Stills, Nash & Young(ニール・ヤングは出ていない)Jimi Hendrix(ジミヘンの演奏は4日目・月曜日の朝9時からだったので大半の人は帰ってしまったあとだった)などなど。

コンサートは、大都市の新聞やラジオ局で宣伝され、事前にチケットを販売していたが、売れたチケットは18万枚程度で、主催者たちは実際に会場に5万人が集まれば大成功と思っていた。

ところがコンサートの始まる前日の木曜日にはすでに2万5000人が集まってきた。コンサート初日の金曜日には周辺道路は渋滞どころか、観客が途中でクルマをおいて徒歩で会場に向かうので通行不可能。会場の周囲はフェンスが張り巡らされ、入り口を絞ってチケットを確認するはずだったのが、みんなフェンスを破って勝手に入っていく。結局大半の観客がお金を払わなかったらしい。

渋滞で出演者が会場にたどり着けないので、主催者はヘリコプターのチャーターを試みるが手配が着かない。結局、輸送に協力してくれたのは軍のヘリだったという。
反戦を旗印にしたコンサート会場に陸軍のヘリで到着する?」「いや、我々は軍隊に反対している訳じゃない、戦争に反対しているだけだ」と無理矢理な理屈で軍のお世話になったそうだ。実際、軍や警察の協力がなければ、コンサートは成立しなかった。アーティストのみならず急病人の搬送や食料の輸送と、 軍や警察のヘリは大活躍だったとか。

せいぜい5万人が来てくれれば大成功と思っていたコンサートに50万人が集まった3日間の野外コンサート。予期しないことが次々起きる。まず、集まった人の数が予想外だった。次に天候。激しい雷雨が降り、演奏は一時中断し会場がぬかるみ状態になってしまう。さらに食料。5万人が3日間と見積もっていた食料では50万人は一日と持たない。会場周辺に住む人たちは、若者たちがお腹をすかせていると聞いて、自分の家にあった食料を無償で提供する人たちが多かったそうだ。近くの住民だったレニ・バインダーズはスーパーでパンなどを買い占めて一日中サンドイッチを作り続けて無償で配り「伝説のサンドイッチおばさん」になったとか。

今、Woodstockには、草原のなかに博物館とコンサート場ができていて、多くの観光客がやってくる。その会場で、今週末40周年記念コンサートが行われる。
ジャニス・ジョップリンは死んでしまったけれどバックバンドだったBig Brother and the Holding Companyは参加予定。時代の変化でAirplaneがStarshipに変わった Jefferson Starship も参加する。他にもCountry Joe McDonald, Tom Constanten, Canned Heat, Ten Years After, the Levon Helm Band, Mountainなど(いまだに現役なんだと知ってびっくりするグループが多いよね)。1万5000枚のチケットはソールドアウトだそうだ。

「Three Days of Peace and Music」のスローガンのもとに50万人の若者が集まったWoodstockは、平和に音楽を楽しむ祭典として記憶され、会場の一体感は当時の若者文化に影響を与え、その後のアメリカの方向を少しだけ変える出来事だったのかもしれない。
あと10年したら現役で演奏を続けているグループはほとんどいなくなってしまうだろう。40周年の今年、あの日を振り返っておくことがとても大切だと思う人たちが大勢いるのは、多分、いいことなのだと思う。(40年前のWoodstockを描いた映画が今週末から公開されます)