American Art Museum:公開倉庫と公開補修室

仕掛かっていた仕事が一段落したのと、予定していた用事が延期になってしまったので、久しぶりにワシントン中心部の美術館探訪に出かけてみました。

ワシントンにはスミソニアン協会が管理する15の美術館・博物館の他にも、数え切れないほど多くの美術館・博物館があるけれど、芝生のモールを取り囲むように並んでいるスミソニアンの建物群とは離れたところにあるので、これまで何となく行く機会を失っていたのが、American Art Museum。
先日ネット検索をしていたら、1930年代の大恐慌の後に、Public Works for Art Programというプロジェクトがルーズベルト大統領の肝いりで立ち上げられ、不況で活躍の場を失っていたアーティスト達を支援したという歴史を知った。その時代の作品が「A New Deal for Artists」という企画展で行われているというので、行ってみたわけ。

何度も足を運んでいる巨大なナショナル・ギャラリーは、宗教家から印象派、抽象画もポップアートも、アメリカの首都の「国立美術館」の名に恥じないコレクションを誇るが、アメリカの画家の作品は実は少ない。
だいたいアメリカの画家と言われてすぐに名前が浮かぶのは、アンディ・ウォホールとノーマン・ロックウエルとアンドリュー・ワイエスくらいしかなくて、不勉強だなと思っていたので、この際、じっくりアメリカ美術を見てこようなんて出かけていったわけです。

巨大な建物を入ると右手がAmerican Art Museum、左手がNational Portrait Gallery(肖像画美術館)になっていて、広い中庭を囲んでロの字型にギャラリーが続いている。1階から3階まであって、1階が特別展、2階が1940年まで、3階が現代・コンテンポラリー。建物の左側半分を占める肖像画美術館の方はとても見切れないので、今日はほとんど省略。

「A New Deal for Artists」だけでもとても見応えのある展示で、1点ずつ画家のことや絵の背景が説明されている。とても全部は読んでいられないので、気に入った絵だけ説明を読みながら見ていく。特別展以外の常設展も、同じように気になる絵だけ足を止めて見ていく。
絵画・彫刻だけでなく家具や装飾品など工芸品も展示されていて、興味深いものがたくさんあるが、とても全部は見切れない。
また来よう。入館無料だし・・・(ここがスミソニアン協会の美術館・博物館の素晴らしいところです。入館無料だから何度も足を運べる)

1階→2階→3階まで、急ぎ足で見てもたっぷり2時間以上かかったかな。3階の端まで足を運んだら「→cafe」 の表示が。
展示フロアはどこも広く、あちこちに椅子やソファが置かれ、座り込んで絵を見ることもできるし、座って本を読んでいる人もいた。私も時々座って絵を見ていたけれど、それでも3階の端までくるとコーヒーと椅子が恋しくなって、cafeと書かれた方へ吸い寄せられていく。

「cafe」はテーブルと椅子が彫刻展示の間に置かれ、ポットに用意されているコーヒーを自分でペーパーカップに注いで自由に飲んでいい無料カフェだった。入館無料のうえにコーヒーまで無料!!とカンゲキ。
コーヒーを飲みながら周囲を見回すと3階の一部が吹き抜けになっていて、さらにその上にぎゅう詰めに絵が並んでいるフロアが2フロア見える。狭い階段で上がっていけるようになっている。

なんだろうと思って上がっていってみたら、そこは、何と「一般公開されている倉庫」でした。狭い空間にガラス棚に納められた絵や彫刻、工芸品がぎっしり詰まっている。展示に出していない所蔵品を納める倉庫なのだけど、そこを入館者に公開している、というわけ。一般展示ではないので作品名や作者名の表示はないが、コード番号が振ってあって、あちこちにおかれているパソコンにコード番号を打ち込むとその作品の詳細が見られるようになっていた。

2フロア分の倉庫を急ぎ足で舐めて、端までいくと、さらにその奥にも何かある。「Discover」と書かれたパンフレットが置いてあった。なんと今度は「公開補修室」だった。
一般客が入れる通路とはガラスで仕切られた向こうで、美術館職員が美術品の補修をしている。デモンストレーションではなく、本当に仕事をしているところを公開しているのだった。

本当に仕事をしているから、電話をしていたり(ガラスで仕切られているので内容は聞こえない)、打ち合わせをしていたり、補修の現場を見られないこともあるが、補修の方法や道具などを説明するビデオが見られる。額の補修、破けた紙の補修(日本の和紙が補修に最適なのだそうだ)、絵画の補修、彫刻の補修など美術品を保護していく活動がすべて公開されている。面白かった。

ほんのおまけのつもりで狭い階段を上っていった先で見つけた「公開倉庫」と「公開補修室」、本日の最大の収穫でした。今日は時間がなくて駆け足だったけれど、次にくるときは、まずここから始めようと決めて、今日は帰ってきました。

不況のどん底で芸術活動を支援するプロジェクトが立ち上がる、美術館の倉庫や補修の現場をだれにでも公開する。
芸術を身近なものにしている国の施策あるいは国民性は、残念ながらアメリカにとても勝てないと思い知った一日でもありました。