アメリカで歯医者に通う

以前、アメリカの医療保険が破綻している話を書いたときに、一般の医療保険には歯科は含まれず、歯科専門の医療保険があることをレポートしたと思いますが、その歯医者にかかることになってしまいました。
それも、主人も私も、二人とも。(長〜いお話になります)

≫≫Root Canal Surgery!

まず主人の歯科医体験から。
1月末の一時帰国時に主人が歯が痛いと言い出した。前にかかっていた都内の歯医者にいったら、10日くらいしか日本にいないのでは治療は出来ないと言われ痛み止めと抗生物質を処方された。
痛い歯を我慢してワシントンに帰ってきた主人のために、私は周囲の友人に「良い歯医者知らない〜?」と聞きまくり5件ほど歯医者情報を集める。主人はそのなかから国務省勤めの友人が「とてもプロフェッショナル」と推薦した歯医者を選んだ。曰く「役人は評価が厳しいから間違いなさそう」と言うわけ。(歯科保険に入っていない我が家は、かかれる歯医者が保険で制限されるわけでないので、行きたい歯医者にかかれる)

電話を入れると2日後に予約が取れた、前日に確認の電話がかかってきて、場所やビルの入り方を丁寧に教えてくれていた。
当日、昼頃の予約で出かけていった主人が6時過ぎまで戻ってこない。どうしたのかと思っていたら、歯科を2軒はしごしてきたという。
最初の歯科でレントゲンを撮って調べたところRoot Canal Surgery(歯根の根管手術:日本では普通「神経を抜く」と言われる処置です)が必要だと言われ、Endodontist (歯内療法専門医)を紹介され、たまたま当日の予約が取れたので行ってきたとか。アメリカは歯科医も分業が進んでいるのです。

日本で神経を抜いてあったはずが、完全には取り切れていなかったので痛み出したのだそうです。最初の一般医から専門医へレントゲンの画像がメールで送られて、本人が着いたときにはすでに治療の準備は出来ていたとか。それでも歯根の奥の神経を掘るのは大変で2時間以上診察台に座ったままだったと言っていました。

途中何度かレントゲンを撮って完全に神経を取り去ったことを、本人も診察台の前に置かれたPC画面に映し出される画像で確認したそうです。すっかり痛みも治まり、中年のスペイン出身の女性歯科医とのお喋りも楽しかったらしく、主人ご機嫌でした。

3週間後、経過を見てもらうために再度Endodontistを訪れ、Root Canalは完治。そこで再び元の歯科医の予約を取り、今度は新しい差し歯を作ってもらう。型を取るのに1回、2週間後に出来上がった差し歯を装着する治療で1回。3月末にようやくすべての治療が終了して、主人好物のフランスパンを心おきなく食べられるようになったのでした。

≫≫Dental Repair Kit!

さて、私の歯医者体験。主人が最初の歯科医に予約を取った日のこと。固いものが食べられない主人のために、とろとろに煮込んだ美味なシチューを夕食に食べていたら、左奥歯にかぶせていたCrown(金冠)がねっとりしたジャガイモにくっついて取れてしまった。いつ治療を受けたか覚えていないほど古いCrown。
「歯医者の予約とれて良かったねえ」なんて話をしている最中のことで、なんで私まで!とびっくりするやら、笑っちゃうやら、腹立たしいやら。

主人の歯は痛みもあるし、忙しい身の上だし、待ったなしだからアメリカで歯科治療やむなしと思っていたけれど、私のは痛みはないし、今度日本に帰るときについでに治療でいいかな、どうしようかな、とずいぶん迷った。

ところで、日本では見たことないですが、アメリカにはスーパーの歯磨き歯ブラシ売り場に”Dental Repair”製品を何種類も売っている。テレビコマーシャルも見る。取れた詰め物を自分で詰め直す材料、はずれたcrownをもとどおりつける接着剤、直接歯ぐきにつける痛み止めなどなど。歯科医療費が高いこの国では、こうした材料・道具でごまかしている人が大勢いるということなのだろう。

私もcrownが外れただけだから、この機会にRepair Kitを使ってみようと買ってきた。わずか4ドル。直径1センチくらいの小さなカップ型の容器に少量の歯科用セメントが入ってヘラがついている。説明を読むと、歯と取れたcrownをよく洗って、まずセメントをつけずにcrownをかぶせてみる。ガタガタするようだったら本品を使わずに歯医者に行くこと、とある。crownをかぶせてみるとピタッとはまって動かない。行けそうなので、セメントを少量内側にヘラで伸ばしてcrownを歯にかぶせる。しっかり密着させて数時間歯を使わずに乾くのを待つ。しばらくは快適でした。
このままで次に東京に帰ったら歯医者にかかろうかと最初は思っていたのだけれど、4〜5日後に応急処置がゆるんできた。

≫≫最先端の歯科治療

アメリカの歯医者は治療費は高いけれど治療技術は日本よりずっと進んでいるので、余裕があるならアメリカで治療を受けた方がいいという話も聞くので、私も思いきって歯医者に行くことにした。

主人の歯科医とは別の、家から歩いて数分の歯科に予約を取る。木曜日に電話をして状況を話したら次の月曜日に予約がとれた。当日の朝一番、少し早い時間に来られる?と電話が入る。
指定された時間に行くと、まず問診票を書かされる。住所・名前・保険の種類・煙草は吸うか、アレルギーはあるか、特に麻酔で体調がおかしくなったことはないか、最後に歯医者に行ったのはいつか、歯磨きは一日に何回、何分するかなどなど問診票2ページに詳しく記入していく。インターネットで調べた歯科医の中には、問診票をダウンロードできるようにしていて予め記入して持ってきてください、というところもあった。

問診票を書き終わるといよいよ診察台へ。診察台は日本の歯医者とそう変わらない。違うのは20インチくらいの可動式PCモニターがあること。担当の歯科医は感じの良い40代半ばと思しき白人女性。奥歯のcrownが取れてしまってRepair Kitで応急処置したと正直に説明すると(余計なことをしてと怒られないか心配していたのだけど)You did a good job! と誉めてくれた。crownが取れた歯をそのままむき出しでおくより、応急処置するほうが正解だったらしい。

レントゲンを撮るといって「これを口にくわえてね」と口の中に小さなフィルムがセットされるように作られた道具を噛まされる。壁のキャビネットを開けるとカメラ部分がをずずっと出てきて、診察台に座ったままでレントゲン撮影が完了。撮影したフィルムを助手がもって奥へ行き、数分後には目の前のモニターに撮影した画像が映し出される。ーー最先端システムだ!

先生、crownの取れた奥歯の画像を見ながら、歯根を指さして「こんなにしっかりしたRoot Canalは初めて見たわ」−−患者を誉めまくるタイプの先生らしい。
歯根も歯もしっかりしているけれど、歯肉(gum)の高さが下がってきてcrownが合わなくなったのだという。新しいcrownを作る必要があるとのことーーわあ、高いんだろうなあ。

初日は歯の様子を確認して治療方針を相談して、取れたcrownと歯をきれいに掃除してプロ用のセメントで仮治療。2日後に新しいcrownの型を取るから少し時間がかかるけど、と言われ、次の予約をする。

2度目の診察。新しいcrownの型を取るために歯の表面を少し削ったり歯肉(gum)を押し下げる処置などして「今日一日は痛むかもしれないわよ」と脅されつつ、柔らかいゴムみたいなものを噛んだ状態で型をとる(日本でも同じですね、ここは)。
かなり長い時間、口を開けたままの状態で治療を受けていたけれど、You are very patient, you helped me a lot! などと、今日もお褒めの言葉をいただく。治療の内容を事細かく説明しながら治療してくれて説明も分かりやすかったので、さほど苦にならなかった。ーーこの辺のinformed contentは徹底している。
仮歯をかぶせて噛み合わせの調節をしてくれて終了。1時間くらいの所要時間でした。新しいcrownが出来る2週間後の時間を予約して、この日は終了。

さて2週間後の3度目。とれてしまった古いcrownは金属製でしたが今度の新しいcrownは歯の色に合わせたセラミック。何度も噛み合わせを調節して20分くらいで新しいcrown装着完了。歯肉も歯も歯根もしっかりしているけれど治療してから時間が経っている歯が多いので、定期的にチェックアップに来た方がいいわ、と言われて、3ヶ月先の予約が決まった。

そんなわけで、主人も私もアメリカで歯科治療を経験した。確かに技術は進んでいるし、痛くもなく、先生たちは説明が上手で、腕は確かだった(たまたまかもしれないけどね)。
それに、面白かった。でもね、確かに高かった。

≫≫歯科治療のお値段

主人:Root Canal治療が約1400ドル(歯根を掘るだけで14万かあ・・・)一般歯科治療がセラミックの差し歯代金を含めて約1400ドル。合わせて約2800ドル。

私:一般歯科治療が主人とほぼ同じでcrown代金含めて約1400ドル。

歯科保険に入って歯医者にかかっても、年間で自己負担分も含めると同じくらいの費用がかかることになるみたいです。二人ともひと財産使いましたが、予後は快適です。歯科の主治医が出来て、治療の仕組みが分かった安心感は大きい。
まあ、当面、外食を控えたり食費を切り詰めたり家計は緊縮財政ですけど。