BIG 3?

BIG 3といえばGM、フォード、クライスラーアメリカ三大自動車メーカー。大企業ひしめくアメリカ産業界でも、ひときわ巨大な影響力を持つ企業群だ。そのビッグ3が、アメリカ経済の混乱の中で、このままでは経営破綻する、そうなると300万人とも500万人とも言われる失業者を生むことになる。だから国としてビッグ3を救済する必要がある、という論理で巨額の政府資金の投入を要請している。
ビッグ3のトップが並んで登場した下院公聴会は、数週間前に始まり、当初の彼らの主張は「ビッグ3の経営危機はアメリカ経済の混乱が原因なので政府の支援が必要だ」という理屈だった。

これにはみんな反発しましたね。経営危機を言いながら社有ジェット機でワシントンまで飛んできて、自分たちの経営手腕に問題はないという顔をしているのだから。 「政府が資金を出したとして、そのStupidな経営をまだ続けるつもりか」とか「従業員をリストラしながら自分たちは社有のジェット機で楽をし続けるのか」とか。結局、経営改革プランが示されないことには援助に値するかどうかの議論も出来ないと追い返されるような形で公聴会がお開きになったのが10日ほど前。

この時のビッグ3の経営者たちは、テレビのトークショーお笑い番組の恰好の餌食になりました。大統領選挙の最中はジョン・マケインサラ・ペイリンが標的でしたが、選挙後はさすがにオバマ次期大統領は笑いのタネに出来ないらしく、みなさんタネ切れ状態だったのです。

NBCが土曜日の夜に放送する「サタデーナイトライブ」は数あるお笑い番組の中でも高視聴率を誇る。さっそく3人の経営者が並んだ場面を芸人たちがパロディにした。

公聴会に大幅に遅れたことをお詫びします。前回ジェット機に批判があったので今回は自社のクルマでデトロイトからやってくることにしました。まず、クライスラーのクルマはどうしてもエンジンがかからず、GMのクルマに乗ったところ、エンジンはかかるのですが、走り出すとすぐに動かなくなってしまう。そこでフォードに乗って出発しました。クルマは順調に動きましたが、純正のカーナビが不具合で××(地名を忘れた:ワシントンとは方向違いの場所)に着いてしまい、近くのBestBuy(電気製品の量販店)で市販のナビを買ってようやくワシントンに着いた次第です」 とビッグ3の製品は使い物にならないというストーリーを演じて大受けした。

アメリカはこうした良くできた番組のシーンは、他局でもニュースのなかで何度もオンエアされるので、その露出は相当なものになる。ウイークデーの11時30分から始まるナイトショーとかレイトショーとか呼ばれる番組では、こんな小咄になっていた。
「ビッグ3の会長たちが自社のジェット機が評判が悪いので、今回はクルマでワシントンに行くことにした。時間に間に合うように確実に行くためにトヨタ車に乗っていくことにしたってさ」

ビッグ3のクルマが品質や信頼性、あるいは時代のニーズにあった製品作りで日本車やヨーロッパ車に劣ることは、アメリカでは周知の事実。トヨタは確かハイブリッドの技術協力をしたうえに、ビッグ3が独自のハイブリッド車を発売するまで車種を限定するとか、ひとり勝ちにならないための最大限の努力で協力してきたのではなかったかしら。その甲斐もなくビッグ3はこのていたらく。

銃規制や環境など現体制を批判する映画作りで知られるマイケル・ムーアは、CNNのインタビューに答えて“Those idiots don’t deserve a dime!”ーあのバカどもは10円の価値もない、とばっさり切り捨てていました。彼は祖父も父も自動車会社で働いていたそうです。

CNNの調査では、6割の人がビッグ3救済に税金を使うことに反対し、7割の人が税金を投入しても経営が良くなるとは思わないと答えている。現在の経営は、過去の負の遺産、たとえば強大な組織を持つ自動車労働組合や、引退した役員や元従業員への手厚い年金など簡単には合理化できないものを抱えすぎて身動きが取れなくなっているらしい。こうした負担が積み重なって、労働者1人1時間当たりのコストがGMでは77ドルに相当するという。一方、そうした負の遺産を持たず、労働組合の影響力も少ないインディアナ州のホンダの工場は1人1時間のコストが44ドル程度だとか。

こんな話を聞くと一度ばっさり潰してしまって経営を合理化し、ゼロから仕切り直したほうがアメリカ経済のためだろうと思えてくる。まあ、そう簡単にはいかないのだと思いますが、日産がカルロス・ゴーンを経営に迎えて経営改革したような荒療治が必要なのは誰の目にもあきらかです。アメリカの象徴であるビッグ3がどうなるのか(関係者には失礼ながら)野次馬としてはこれまた興味津々です。