BUY ONE, GET ONE FREE

9月29日に、アメリカの金融危機に国家財政から7000億ドルを支出する金融救済法案が議会で否決された。ニューヨーク株式市場の株価が1日で777ドル下げ。史上最大の下げ幅だそうだ。翌日500ドルくらい戻して一息ついた格好だが、どうやら預金の補償額を10万ドルから25万ドルに引き上げる修正案で明日にも救済策が可決されるらしい。

29日の開票の時には、救済法案を提案したブッシュ大統領が属し、次期大統領候補にマケイン議員を擁す共和党が賛成3割・反対7割、逆にオバマ候補を擁す民主党のほうが賛成6割・反対4割。普通に考えれば賛成票が多くなるはずの共和党に反対票が多くて法案が否決されてしまった。ブッシュにもマケインにも党をまとめる力がなかったという訳で、この混乱状態が長引くと選挙戦にも大きく影響しそうな形成だ。

ところで、アメリカの不良債権の中身を市民レベルで考えてみると、一般市民が買い物をする商習慣にも問題があるような気がしてならない。

アメリカでコマーシャルを見ていると家具家電など耐久消費財で“BUY NOW, PAY LATER”が常習化していることに気づく。クレジット社会といわれて久しいアメリカだが、日本でよくある「ボーナス払い」をもっと極めた支払い方法だ。
バーゲンシーズンが近づくと量販店のコマーシャルが増え「今なら特別価格で買えて支払いは1年先からでOK」とか「2年間は(ローンの)利息なし」とか「6ヶ月間は支払い不要、利息なし」とか、お金を持たなくても買える仕組みが定着している。半年先から支払いが始まるもの、1年先から支払いするものなど、店ごとに設定した方式で買い物をしているうちに、いったい自分が将来どれだけ支払いをしなければならないのか、分からなくなってしまうに違いないと思う。

もうひとつ大量消費社会アメリカならではの売り方に“BUY ONE, GET ONE FREE“というのがある。例えばポロシャツ1枚30ドルで売っている店で、BUY ONE, GET ONE FREEの看板が出ていたら、同じ種類のポロシャツを1枚買うと30ドル、2枚買っても30ドル。1枚買って2枚目をタダにする、という売り方だ。1枚だけ買っても半額にはならない。結局色違いとか家族でサイズ違いでとか2枚買うはめになる。
我が家で経験した最も極端な例は、1枚32ドルの値段がついていたポロシャツ、気に入ってレジに持って行ったら「3枚だと24ドルになるんだけど」と言う。1枚につき24ドルではない。3枚で24ドル。つまり最初の1枚の値段が3枚買うと1枚あたり4分の1になってしまう計算。この時はアメリカに着いたばかりで着るものが少なかったから3枚買って便利に着ました。
こんな売り方につきあっていると着るものがどんどん増える。まあ、こちらの洗濯機・乾燥機で洗濯すると生地が傷むから普段着はそんな惜しげのないものを愛用するようになって、アメリカ流に染まってしまったなあと思うことしばしば。

あと「これが問題だと思うの」と昨日あるアメリカ人女性に聞いた話。
数年前の住宅価格が高騰していたときに、最初の数年は支払いなし、あるいは最初はごく少額のローン条件で家を買った人が、住宅価格暴落で相場が買ったときの半分から7割くらいの価値に下がってしまうとローン支払いを止めてしまうというのだ。
例えば2年前に1億円の家を買って現在までの支払いは合計1000万だとする。住宅相場は半分に下がって5000万。すると支払い能力があってもローン支払いを止めてしまう。当然その家に住めなくなるが気にしないで明け渡す。そして同等の家を5000万で買い直す。
結局、住み続ければ1億円払わなければならなかった家が、同等の家を1000万プラス5000万、合計6000万で手に入れることができて、4000万得をした計算になる。これがスマートなやり方だと思っている人がかなりいる、というのだ。
住宅価格や株価の暴落、銀行の破綻は政府の政策のまずさが原因で、自分たちは被害者だと思っているわけだから当然の防御策かもしれないが、こうして銀行にはローン崩れの不動産が集まり、これを資金化するために安い価格で売り出すから、さらに住宅価格は下がる。銀行の不良債権は膨らむ。悪循環が金融破綻を引き起こす。

アメリカの金融破綻は根が深いような気がする。これまで先払いを前提にクレジットで買えていたものが、クレジットの限度額がどんどん引き下げられている(CREDIT CRUNCHと呼ばれてます) ために、ある日買い物をしようとするとクレジットカードが使えない。あるいはスモールビジネスをしている人たちに銀行が貸し渋りをして事業が立ち行かなくなる。先行き不透明だからみんな買い物をしなくなるので、さらに景気が後退する。

明日は、ユダヤ教の新年にあたる休日で休会していた下院が再開するので(上院は開催中なのに、なぜか下院だけユダヤ教の祝日に会わせてこの時期に2日も休会なの)、いよいよ何か決まるかもしれない。加えて明日は副大統領候補のディベートサラ・ペイリンが何を答えるか、下世話な興味で過去最高に視聴率の高い副大統領候補ディベートになるだろうと言われている。今夜は早く寝ようかな。