ニューヨークタイムズとワシントンポスト

アメリカの新聞は日曜版というのが特別で、通常の3倍程度の値段がしますが、1週間分のテレビガイドやカラー刷りの「マガジン」がついてきたり、「ブックレビュー(書評)」など、情報がつまっています。平日は新聞を取らず日曜版だけ購読している人も多いようです。我が家では、日曜版は地元紙のワシントンポストの他にニューヨークタイムズを買っています。
日曜版の2誌の読み比べるレポートを日課(週課?)にしようと思っていて、先週も注目記事があったのですが、Newseumに行ったり図書館に行ったりしているうちに時間がたってしまいました。

先週の目玉はニューヨークタイムズ「Art&Leisure」セクションの一面。あのスーパーマリオWiiを作った任天堂宮本茂氏の記事。1面ほとんどと中面1ページまるまる使った大特集です。Wii Fitの発売に合わせてニューヨークに来ていた氏のインタビューを含め、実に詳しい記事になっています。拾い読みすると、こんな内容。

ーー宮本氏をウォルト・ディズニーにたとえても問題はないだろう。彼の作ったスーパーマリオのライバルはミッキーマウスしかいない。アメリカに来て独立して仕事をすれば大富豪になれるのに、彼は任天堂に留まり、常に新しいゲームの開発を続けている。新しいWiiは、これまでゲームをしなかった女性や年配層も親しめるシンプルで楽しいゲームが詰まっている。先週発売されたWii Fitは、楽しくエクササイズができる全く新しい発想のゲーム。発売後、間がないので販売数は発表されていないが全米の販売店で売り切れ続出。遊びを作り出す達人の宮本氏は、この先もWii Musicなど、新しいエンターテインメントをリリースしていくようだ。誰よりも遊びを知り尽くしたデジタル時代のウォルト・ディズニーに、抵抗しても無駄のようだーー
     
ニューヨークタイムズにこの大きさの記事は破格の扱い。ウォルト・ディズニーに匹敵すると書かれていますが、現代なら、ビル・ゲイツとかアップルのスティーブ・ジョブスとか、あるいはスティーブン・スピルバーグとかと同等に見られているといって良いと思います。ただ、会社を起こせば大富豪になれるのに、と書かれているように、これだけ成功している人が、任天堂に留まって仕事をしていることが、アメリカでは理解されないようです。
ーーと、ここまでが先週の新聞からのレポート。

ここから今週ーー2誌のすべてのセクションを並べて写真をとってみました。

一面トップが違います。NYT(ニューヨークタイムズ)は北京オリンピックを取り上げ、中国が威信をかけて選手の育成に資金を投じ、多くの金メダルを獲得しようとしている、という記事。政治の町のWP(ワシントンポスト)は、ミシガンとフロリダで予備選を前倒ししたために資格剥奪されていた代議員のカウントを「半数だけ復活させる」ことを民主党の党規委員会が決めたというニュース。NYTではこれが2番手の記事です。都市の性格の違いが現れているということでしょうか。

日曜版で一番楽しみなのがブックレビューセクション。日本の新聞の書評欄に似ていますが、一冊の独立した雑誌になっています。今週のNYTのブックレビューは「Summer Reading」特集。日本では秋が読書の季節ですが、アメリカは夏休みが読書シーズン。海辺のビーチチェアに寝ころんで本を読む、というのが彼らが夏休みをイメージしたときのシーンなのだと思います。夏休みが近くなると「Summer Reading」はどの新聞もTIMEやNewsweekなどの雑誌でも必ず特集します。

さてNYTのブックレビュー、今週は通常より倍以上の56ページの大特集。そのなかで著名な作家に「大統領候補者に奨める本」をアンケートしました、という記事がありました。アメリカの現役作家、あまり知りませんよね。15人くらい名前があって読んだ記憶があるのはジョン・アービングぐらいだった。で、ざっと何を推薦するか拾い読みしたら、ヒラリー・クリントンに勧める本として複数の作家がシェークスピアの「マクベス」を揚げていた。J・アービングもその一人。う〜ん、ちょっとかわいそうな気がする。

2誌のブックレビューに取り上げられた新刊書のなかで、これは読みたいというか見たい、と思ったのが、"BOB DYLAN The Drawn Blank Series"という本。
あの、日本ではフォークの神様として知られるボブ・ディランの画集です。書評ページの写真をご覧下さい。
     
なかなか味のある絵でしょう。ディランの描いたもの。世界各地のコンサートツアーの合間に書いた絵やデッサンを集めた本です。
書評を書いた作家マリーシャ・ペッシルの表現が面白い。「パーティで職業を聞かれてアーティストと答えたら、ニューヨークの14番街より北ではお金や食べ物をめぐんでもらうことになる、14番街より南では「何の?」と聞かれてタマゴを投げつけられる。中西部ではハグされる(しょうがない人ねえ、という感じでしょうか?)、サンタモニカでは「素敵」と言われてローラースケートに誘われる。捕まって縛られトラックの荷台に放り込まれる場所もこの国にはある...ところが、ボブ・ディランは、音楽でも詩でも、文章でも絵画でも、何の苦労もなくこなしてしまう、本当に希な、アーティストと呼ぶに足る人だ」と賞賛するわけです。

絵を評価するのは苦手だとずっと思ってきたのですが、このページを開いたときに、絵そのものに惹かれて、記事を読んだらボブ・ディラン。この本、65ドルだそうです。買うかな...