捨てられないもの

みなさん、古いレコードってどうしてます?

年初から始まった、アメリカからの引越荷物と無理矢理押し込んだ東京の住まいの荷物整理プロジェクトも、終盤にさしかかっています。ついに20年来の懸案だったレコードコレクションに手を着けることになりました。

主人と私がそれぞれに若い頃に集めて持ち寄った我が家のレコードコレクション数百枚。物置部屋の一角の相当な容積を占めていたのを、保存するなら空調の効いたトランクルームに移動しようと、整理を始めました。

中学時代から買い集めたアルバムは、Beatlesなどリバプールサウンズから始まって、同じものをCDで買い直したアルバムもたくさんあるのに、どうしても捨てられない。いまやアルバム1枚分、十数曲を1分足らずのダウンロードで、ちょっと豪華なランチくらいの値段で手に入れられる時代だけど、はじめて「好きな音楽を自分で所有したい」と思うようになった中学時代、アルバム1枚は1か月のおこづかいに相当する。選びに選んで、何度もレコード屋に足を運んで、どのラックにどのレコードがあるか、そこのレコード屋の品揃えがそらで言えるくらいに通い詰めて、ようやく1枚。おこづかいをはたいて手に入れる。

数え切れないくらい聞き直したレコードは、いまや雑音だらけで聞くに値しない音質になっていることは分かっている。でも一枚一枚手にとってみると少しシミの出てしまったジャケットやライナーノーツの紙も含めて、自分にとっての「価値」が大きくて捨てる気になれない。

同じアルバムのレコードとCD(両方もっているものもたくさんある)を並べてみて、CDにはほとんど思い入れがないのに、レコードはその質感とか空気感とか1枚1枚がみんな違っていて自己主張している。

人気者のレコードなら、そのジャケットは、当時の人気フォトグラファーの撮った写真を気鋭のグラフィックデザイナーがデザインし、最高の印刷技術で仕上げられたアート作品ばかり。12センチ角のCDジャケットではたいしたことないものが、32センチ角のレコードジャケットで見ると迫力が違う。名盤のレコードジャケットを集めた画集などもあるが、つるつるの光沢紙に印刷された画集と、光沢を押さえたマット系の紙に印刷されたものの多いジャケットは、比べてみると画集ではその質感は再現されていない。広い壁面をもつ家に住めるのだったら、毎日日替わりで飾ってみたいものも多い。

結局、アルバム名、アーティスト名、レコード番号などをデータベースに入力して、レコードラックごと空調の効いたトランクルームに運んで保存することになった。多分、針を落として音を聞くことはもうないだろう。でも、1960年代から1980年代始めまでのグラフィックアートコレクションを数百枚持っていると思えばいいじゃないかと。捨てられない理由をそう言い聞かせて、結局1枚のレコードも片付けることなく、場所が移動しただけで終わりました。

でも、レコードに思い入れがあって処置に困ることって、もっと若い世代ではないんだろうな…