ちょっと災難、ちょっと教訓

不注意でカフェの椅子におきっぱなしにしてジャケットを盗まれてしまった。

金曜日の昼過ぎ。日本語を教えつつ、英語を教えてもらうExchangeのパートナーと2時間くらいカフェで時間を過ごした。別れ際、急に腹痛に襲われたので「私はトイレによっていくから、今日はここで」と挨拶し、バッグだけ持ってトイレへ。テーブルにはまだ飲みかけの飲物など食器類を出したままだった。荷物を全部持って行くには、まずテーブルを片付けなければならないけど先にトイレに行きたかったので(日本人的に律儀なところが災いしたとも言えますが)、椅子の背にかけていたジャケットをそのままにして席を立ってしまった。

ほんの5分程度だと思うが、席にもどると、テーブルはきれいに片付いていて、入ってきたばかりの男性が席に座ろうとしているところだった。「あ! やっちゃったかな!」と思ったが、男性に「そこにジャケットありませんでしたか?」と聞いて確認してもらったけれど、ない。料理を運んでいるカフェのスタッフに声をかけてみたけれど知らない。レジのところにいたマネージャーに話をして他のスタッフにも確認してもらったけれど、みんな気づかなかった、と。

誰かに持っていかれちゃったのね。金目のものは入れてないし、しょうがないか、自分の不注意だから、と諦めたところで、ハタと気づいた。いつもはジーパンのポケットに入れているアパートのカギを、その日に限ってジャケットのポケットにいれたことを!

こんなとき、 アメリカでは、どこまでOKで、どの辺からやばいのか、その勘どころがいまひとつつかめない。カフェなどで座席を確保するために荷物をおいて飲物を注文にいくのは日常茶飯事。書類や上着で席を取っている人は大勢いる。もちろん財布など貴重品をおきっぱなしにする人は、日本と同様にいないけど。

私はアパート暮らしなので荷物が届くとフロントが受け取ってくれて通知がくるが、郊外の一戸建てに暮らすアメリカ人の友人に、留守中に届いた荷物はどうするの?と聞くと「戸口においてあるわよ」という。「ここはアメリカよ。誰も持って行かないわ」といたって大らかな返事。(いやあ、アメリカだから安心できないと思っていたんだけど、と心の中でつぶやいてみたけど声には出さなかった)

この冬に通ったスキー場では、どこもレストランの壁際が自由に使える棚になっていて、そこに荷物をおいてゲレンデに出て行くのが常識のようだった。コインロッカーや有料で荷物を預かってくれるサービスはあるが、靴や着替え、持ち込んだランチボックスなどが誰でも手の届く棚にずらっと並んでいた。

見方によっては日本よりずっと大らかに荷物を置き去りにしているようにも見える。アメリカ人の友人に「大丈夫なの?」と聞くと「大丈夫、ここはアメリカだから」と(多分メキシコとかヨーロッパとかと比較して)安全だと言う人が多い。もっともこれがニューヨークとか、治安の悪い大都市だったら話は別なのだと思うけど。

でも、家に戻って主人から、日本人だっていうだけで狙われるんだよ、と言われ、そうかもしれないとも思った。

で、どうやら盗まれてしまったジャケットとアパートのカギ。カギについては、まっすぐにアパートに戻ってフロントで事情を説明したら、まず当座のためにフロント所有のカギを貸してくれた。カギの複製はマネージャーが手配してくれるという。すぐにマネージャーのオフィスに行って複製を依頼すると「1時間たったら取りに来て、それまでに作るから」と。受け取りの際にIDを持ってくるとか何か書類が必要?と聞くと、「何もいらないわよ。あなたがここの住人だってことは知ってるし」といとも簡単。

相応の手数料はチャージされるが、もっと煩雑な手続きを要求されると覚悟していたのに、拍子抜けするくらいすんなりコトが進み、わずか1時間で新しいカギを手に入れた。

もうひとつ、ジャケットの方は、70ドルくらいのお手頃価格のLL Bean製だった。高いものではない。でも、厚手の木綿地にこれもしっかりした木綿の裏地がついていて、少し寒さの和らぐこの季節や晩秋にとても便利で愛用していた。カギの出来あがりを待っている間に、LL Beanのサイトを調べてみたら、何と半額でセールに出ていた。同じものを買うのは芸がないような気もしたが、愛用していたジャケットだったので半額で購入。

結局、カギの入ったジャケットを放置して盗まれた不注意の損害は、待ち時間の1時間とジャケット代・カギ代で1万円ほど。教訓の値段としては、高くはなかった。

でもアメリカ暮らしがどこまで安全・安心なものなのか、それは今でも勘がつかめない。席をとるには、雑誌とか新聞とか、どうでもいいものだけを使うようにしようと、あらためて肝に銘じた。